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明日はいずこへ装甲軍団

本稿は「BANZAIマガジン」第21号に掲載された記事の一部です。結論部分はこのホビーを楽しむ我々にとって非常に重要な問いかけとなっております。是非誌面にてご確認ください。

同一システム、異なる対戦後感

カフカス攻防戦: 第3装甲軍団の死闘』(BANZAIマガジン第19号)と『第57装甲軍団の死闘』(同第17号)は、ともに同一系統のシステムから成り立っている。また東部戦線の機動戦というテーマも共通している。

前者は1942年10月から11月にかけて、カフカスに進撃したエーデルワイス作戦ドイツA軍集団先鋒第3装甲軍団(第13および第23装甲師団)が、グロズヌイを目指し、その手前にあるオルジョニキーゼの攻略を試みた戦い。

後者は同じく42年12月、スターリングラードで包囲された友軍救出に向かうドイツ第57装甲軍団(第6、第17、そして第23装甲師団)の突進を扱う。

望み薄き状況の中、ドイツ軍装甲戦力がなんとか苦境を打開しようと、最後の力を振り絞り奮戦するあたりにも共通の雰囲気がある。しかしながら、この2作の対戦後感は大きく異なるものだった。

『カフカス攻防戦』の展開について述べるとともに、『第57装甲軍団の死闘』と比較して対戦後感の異なった理由を考え、ウォーゲームにどんな興味を持ち、どう捉えるかについても思いを巡らせてみたい。

『カフカス攻防戦』のマップ

『カフカス攻防戦』の勝利条件だが、ドイツ軍プレイヤーにだけサドンデス勝利が設定されている。6つあるオルジョニキーゼの町全ヘクスの占領だ。しかし史実のドイツ軍は、オルジョニキーゼ直前(西)のギゼリを攻略したのち、撤退戦に移行している。この結果からも分かるようにサドンデス勝利は至難といっていい。

現実的にはゲーム終了時の勝利条件、相手プレイヤーより多くのVP(ヴィクトリーポイント)を得ることで勝敗が決まる。

ドイツ軍プレイヤーはマップに14ある各町ヘクスに対し、最初にそれを支配するたびに1 VPを得る。また、マップ北端中央の赤軍補給源ヘクス(1501)から、南端の2つの同軍補給源ヘクス(1116, 2416)への連絡線を遮断していた各ターンにつき1 VP。

ゲーム終了時に、自軍補給源まで連絡線を維持した上で占領している町1ヘクスにつき2 VP。除去した赤軍1ユニットにつき1 VPを得る。

赤軍プレイヤーはゲーム終了時に、自軍補給源まで連絡線を維持した上で占領している町1ヘクスにつき2 VP。除去した、あるいは補給切れ状態にしているドイツ軍1ユニットにつき1 VPを得る。

プレイヤーターン・シークエンスは砲爆撃フェイズから始まる。そして周密攻撃(複数ヘクスから行える通常の攻撃)フェイズ、移動(および機動攻撃)フェイズ、混乱回復フェイズと続く。

移動前に通常の攻撃があり、移動フェイズ中の機動攻撃は、移動直後の1スタック(あるいは1ユニット)が隣接した敵1スタックに対して行える。

どこから戦力を投入すべきか

前半の展開を主導するドイツ軍プレイヤーの戦い方から見ていこう。

最初は分散している赤軍だが、第3、第4ターンにマップ北端中央の補給源ヘクスから大量の増援が登場する。それまでドイツ軍は、ばらばらに配置されている赤軍を混乱に陥れてイニシアティブを取り続け、本格的反攻態勢構築の時間を最大限に削らねば勝機はつかめない。そのためにはスピードファクターが重要になる。

セットアップでドイツ軍ユニットはマップ上にない。全てが増援として、マップ西端にある2つのドイツ軍補給源ヘクスから登場する。1つは北にあるアルドン近くのヘクス0106。もう1つは南にあるアラギル近くのヘクス0116。

第1ターンには、ドイツ第13装甲師団の主力10ユニットが登場する。これらをどこから投入するかが最初の課題となる。選択肢は北から、南から、南北両方からの3つ。北の出撃門近くにあるアルドン(2ヘクスから成る)も、南の出撃門近くにあるアラギル(3ヘクス)もVPにかかわる町であり、早速攻略したいところだ。

しかしドイツ軍は移動で登場するのだから、移動前にある通常の周密攻撃はこのターン不可能。1スタック(1ユニット)ずつ行う機動攻撃しかできない。南のアラギルとその周辺には、赤軍の戦車、装甲車、装甲列車大隊各1と4個狙撃兵連隊の7ユニットが陣取っている。ユニット数10対7。素早い攻略、前進は、どうあがいても無理と分かる。

南北2カ所から分割投入するのでは、どちらの方面でもまともな前進はできないだろう。なにより戦力集中の原則にも反する。

北のアルドンを守る赤軍は、1個装甲列車大隊と1個狙撃兵連隊のスタック。これなら移動フェイズ中に、機動攻撃による包囲戦で同地から排除できる。北の出撃門を経た投入が最適解といえる。

1ユニットをアルドンすぐ北の鉄道線ヘクスに移動させ接敵、アルドン南の鉄道線ヘクスから戦力3と戦力2の装甲中隊スタックで包囲するように機動攻撃を行う。

これには砲兵支援、航空支援(第1ターンのルフトヴァッフェは、砲爆撃フェイズで使わずシフトに使う)を必ずつける。防御射撃で損害が出てもひるまず機動攻撃を続行すれば、守る赤軍を混乱させた上に損害を与え、100%アルドンから追い出せる。

3ユニットで同地制圧を終えたら、追い出した赤軍ユニットの殲滅は第2ターン以降の後続に任せ、残りをアルドンスカヤ方面、その南のフィアグドン方面にまで進出させる。迅速な突進が要求されているのだ。

ただし、アラギル北に後々面倒を起こしそうな赤軍戦車大隊(戦車優越値4=かなり高い)がいるので、1、2ユニットはそれをZOCに収め拘束するか、包囲するために使う。

第1ターンにおけるドイツ軍の機動例

機動攻撃でギゼリにアプローチ

第2ターンに入ると、第23装甲師団の主力10ユニットと第13装甲師団の5ユニット、それにブランデンブルク大隊1ユニットが登場。これも基本的には北の出撃門から友軍の後を追わせ、アルドンスカヤ、フィアグドン方面に向かわせる。一部は南のアラギル方面に投入し、同地包囲の準備を行う。

その後、アルドンスカヤ方面からは、マップ北端中央からの赤軍増援を牽制しつつアルホンスカヤを経てギゼリに。フィアグドン方面からは直線的にギゼリに。両軸で機動攻撃を主体にしたアプローチを図る。機動攻撃の多用は、移動接敵後、次のターンまで待つ周密攻撃では時間がかかり過ぎるからである。

戦闘の結果、後退するとユニットは混乱する。混乱するとZOCをなくし移動も攻撃もできなくなる。1スタック(1ユニットでもいい)が機動攻撃で敵ユニットを混乱させて戦闘後前進。続くスタック(ユニット)が混乱させた敵をZOCで包囲するように移動し、さらに機動攻撃を加える。ZOCに後退をしいられた敵は損害(ステップロス)を被る。

この手順を連発する波状攻撃が極めて有効になる。

オルジョニキーゼ攻略が無理と知りつつ、なお同方向のギゼリを目指すのは、ギゼリを取るか、そこを経由し南へ延びる連絡線を妨害できれば、赤軍南北連絡線の遮断(VP対象)を実現できるから。

一方、南に残した懸案のアラギルだが、同地の赤軍守備隊にはドイツ軍が隣接するまでは移動不可の制約がある。それを利用し、接敵しない遠巻きの包囲を行って補給切れに追い込む。その状態から第3、第4ターンの増援(22ユニット)を主力として攻城戦を開始する。もちろん、それら増援の一部は突進の後続にもあてる。

補給も断ち、退路も断ち、戦力でも優越、周密攻撃も使えるのでアラギル攻略は難しくない。第5ターンか第6ターンには制圧できる。そして、制圧し終わる頃にはちょうど赤軍の反攻が始まる。同地攻略に使用した戦力を、今度は防御に投入することになる。

ゲーム中盤、第6、第7ターンあたりで戦局は大きく変容する。赤軍大量増援のため、これまで攻撃側だったドイツ軍が攻勢限界点に達し、防御側にまわる。ここで判断に悩むのが、ギゼリを攻略したか、攻略せずとも赤軍南北連絡線の遮断に成功している場合。

連絡線遮断を維持した各ターンにつき1 VPを獲得できる。だが、それをいつまで続けるのかは適切に見切らなければならない。ドイツ軍1ユニットの損失につき赤軍プレイヤーは1 VPを得る。1ターンの連絡線遮断継続で2ユニットを失う戦況なら、それは断念すべきなのだ。

ギゼリ方面の戦力をいつまで維持し、いつ撤退させるかの決断は、ゲーム展開にも勝敗にも大きく影響するだろう。

ドイツ軍とは違う赤軍の流儀

赤軍反攻の主役となるのが、第3ターンと第4ターンにマップ北端中央から登場する合わせて30ユニットにおよぶ大増援。これだけで赤軍増援の約3分の2を占める。

赤軍の攻撃の流儀はドイツ軍とは少々違う。個々の戦車ユニットの運用しやすさではドイツ軍に及ばない赤軍に、機動攻撃主体の攻勢は難しい。周密攻撃に頼らざるを得ない。つまり現ターンの移動フェイズで隣接した後、ようやく次ターンの周密攻撃フェイズで攻勢が始められるのである。

赤軍の大量増援が、移動で充分に展開し終わるのは第5ターン。必然的に大規模な周密攻撃、本格的反攻が開始できるのはワンテンポ遅れた第6ターンからになる。

周密攻撃では、機動攻撃と違って複数ヘクスから攻撃できる。これが大戦力による攻撃を可能にする。さらに攻撃に参加する2ヘクス目から、1ヘクス増えるごとに戦闘結果表の使用コラムを1シフト有利にする特典がある。

2ヘクスからの攻撃なら1シフト、3ヘクスからの攻撃なら2シフト有利というように破壊力は増大してゆく。そこで、より多くのヘクスで接敵するための手段として、移動フェイズ中の機動攻撃を利用する場合もある。赤軍の攻勢は周密攻撃を主体に、機動攻撃を補助とした、両戦闘法の有機的な組み合わせから成り立つ。

まず目標とすべきは、アルドンスカヤ近くにあるフィアグ・ドン川の渡河点。ここを押さえれば、同地点同川以北のドイツ軍を補給切れに追い込める。

こうして一旦赤軍のスチームローラーのような攻勢が始まってしまうと、ゲーム後半のドイツ軍プレイヤーには為す術がない……ように思えるかもしれない。しかし対応手段はある。それがカウンター周密攻撃ともいえる戦い方になる。

赤軍プレイヤーは周密攻撃のため、シークエンス後半にある移動フェイズでドイツ軍ユニットに隣接し、ターンを終える。だが、次ターンにある赤軍周密攻撃フェイズが訪れる前に、ドイツ軍のターンがやってくる。

ドイツ軍プレイヤーは、すでに赤軍ユニットが自軍に隣接した状態で周密攻撃フェイズを迎える。攻撃のため移動する手間を敵が省いてくれたようなものではないか。隣接した赤軍に対し、なるべく多くのドイツ軍ヘクスから攻撃できる組み合わせを考えて、周密攻撃を敢行すればいいのだ。

攻撃に次ぐ戦闘後前進で赤軍ZOCから逃れ、続く移動フェイズで戦線を修復する。同時に機動攻撃を使って周密攻撃で討ちもらした赤軍を退け、態勢を整える必要も出てくるかもしれない。これを繰り返し、敵に痛打を与えながら秩序ある撤退を行うのである。

赤軍とドイツ軍とでは機動戦力の使い方、その存在意義に差が出るあたり、戦いの質の違いが表されており興味深い。

重層的な思考で戦いを構築する

プレイヤーが勝利に向けた努力をすれば、自ずと両軍の特質が表現されたシステムを活かす戦い方につながる。これはウォーゲームがその本懐を遂げたさまといってもよいのではないだろうか。

しかも、単に特質を活かすだけでは充分とはいいがたい。ドイツ軍の前半と後半の戦い方から分かるとおり、状況に応じて活かし方を変化させる必要も生じる。戦闘の優位を成立させた上で、どの地点で、どんなタイミングで使うのかという総合的判断にまで至らなければことはうまく運ばない。

まず、個々の戦闘に於ける優位性をどう確立するかの段階(局地的視点=現実を反映したシステムから見つけるルールの戦術的活用)がある。

そして、優位性をどこでどのように使うのか構想する段階(空間的視点=マップ全体を見渡し、目標到達に向け空間的に最適な戦闘の組み合わせを探る)へと思考の次元を上げる。

さらに戦い全体の流れから、それらをどのタイミングで、どうアジャストしていくか創意する段階(時間的視点=ゲーム展開から推し量り、時間的経緯に沿って最終目的に合致した応用を導き出す)へと昇華させていく。

戦闘のみならず、作戦、キャンペーンと視野を広げて戦いの景色を見せてくれるのだ。

作戦というものをキャンペーンの構成要素と捉え、キャンペーンの目的達成に最適な空間的・時間的構成で一連の作戦を配置する術。筆者はこれを作戦術と解釈するわけだが、その認識からすれば『カフカス攻防戦』は、作戦術的ゲーム展開構築の楽しみをプレイヤーに提供しているのである。

(続きは誌面でお楽しみください)

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