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空母がないなら艦砲で叩けばいいじゃない

本稿は「このシミュゲがすごい! 2016年版」に掲載された鹿内靖氏のレビューです。本日発売の『ガダルカナル』に関するプレイのヒントも記されています。ご参考にしてください。

事前計画の積み重ねによる戦略

『ガダルカナル!』は、1942年8月から11月にかけて行われた日米のガダルカナル島争奪戦をテーマとするキャンペーンレベルの作品だ。特筆すべきは同じくボンサイ・ゲームズ『ノルウェイ!』(編註: 2023年10月再版予定)の血を引く事前計画制であること。

『ノルウェイ!』では両軍プレイヤーが艦隊編成とその投入順をプロットし、それぞれわずか15手番の内に勝利条件達成を競っていた。奇襲上陸侵攻という一発勝負の作戦に相応しい読みと賭けで戦う醍醐味があった。

ただし一旦読み間違うと、途中で取り返しのつかない状況となることも多い。それが面白さの一部であり、そうした特性を持つ戦いだったのではあるが。もっとも短期決戦型作戦に相応しく短時間で終わるので、何度でも戦い直す楽しみがあるとも言える。

また『ノルウェイ!』には、ドイツ軍の勝利条件に通商破壊艦突破とノルウェイ占領との2つが設定されていた。連合軍はそのどちらにも対応できる事前計画を立案しなければならず、そこに悩ましさ、奥の深さがある。どちら側にも複数の目標と選択肢があることで作戦的多様性が確保されていた。

一方『ガダルカナル!』では、状況の性質上どうしても勝利条件がガダルカナル島(以下ガ島)確保の一択に限定される。両軍が単一の最終ゴールを目指す戦いで、複数目標選択による多様性は期待できない。キャンペーンの戦略的妙味が表現されるのかどうか不安に感じられた。だが、こちらは最終目標に至る過程にさまざまな選択肢を出現させることで『ノルウェイ!』に並ぶ切れ味鋭い作品に仕上がっていた。

『ノルウェイ!』では両軍それぞれ15手番の一発勝負だった進行が、『ガダルカナル!』ではそれぞれ7手番を1ターンとする全4ターンで構成される。すなわち『ノルウェイ!』を4回やって総合的勝敗を決定するような感覚と言えるだろうか。

1つのターン7手番で使う艦隊を編成し投入順を決めてガ島を攻略する、あるいは保持する立案。その結果を反映させ次のターンに活かし敵を出し抜く立案。それらを互いに関連づけて連続させ全4ターンを戦う大局的判断。この積み重ねが非常に興味深い。

全体像のビジョンを持ちつつ、1ターンごとに修正して勝利に近づく重層的な面白さがある。たとえあるターンで失敗しても、次のターンではその失敗を活かし、逆に作戦的駆け引きの材料として使えるのだ。

ユニットは空母、戦艦、重巡、輸送船の4種類。2ユニットある輸送船は両軍共用。その時点での非主導権側つまりガ島を支配していない側だけに与えられる。米軍が主導権を持つ状態で開始され、主導権プレイヤー先攻で7手番を繰り返す。

編成できる艦隊は空母機動部隊(空母および護衛の戦艦・重巡)、水上打撃部隊(戦艦・重巡のみ)、上陸部隊(輸送船および護衛の戦艦・重巡)。海域や艦隊の種類によって移動制限・戦闘制限がある。艦隊スタックはプロット段階から裏返して置かれ、戦闘になるまで敵の正体は知ることができない。

編成、投入順など全てプレイヤーに任されるわけだが、初めて戦う方はここに少々戸惑うのではないだろうか。そこで艦隊をどう編成し、どうマネジメントするか基本的な考え方の例を紹介したい。

作戦を読み展開を予測する

まず1つのターンには7手番しかないのだから、通常は6つや7つも艦隊を編成してはならない。1手番で動かせるのは1個艦隊のみ。6つや7つも編成すると艦隊を海域に送り込むだけで終わる。艦隊は海域に投入した上で、もう1手番使って攻撃したり揚陸したりの作戦行動をさせなければ役立たない。

作戦行動を取ると艦隊は必ず帰還する。例えば3個艦隊を編成したとすれば、投入と作戦行動の合わせて6手番しか必要としない。1手番をムダにしてしまう。また艦隊は敵の攻撃を受け損害を被っても即座に帰還する。帰還すると次ターンまで使用できない。これらを勘案すると4個艦隊を編成し、その内3つを活用するとの考え方でよいのではないだろうか。多くても5個艦隊までだろう。

次に編成する種類と投入順を、第1ターン第1手番で先に動く主導権側米軍から考えてみよう。ガ島を保持している米軍に輸送船は与えられないので、空母機動部隊か水上打撃部隊の2種類で4個程度を編成。問題は第1手番後攻の日本軍が何を投入して来るかだ。

米軍が最初に水上打撃部隊をプロットしたとすると行く先は鉄底海峡になる。日本軍水上打撃部隊からガ島を守るためだ。第1手番後攻の日本軍が最初に水上打撃部隊をプロットしていたならそれでいい。しかし日本軍が空母機動部隊をプロットし、東ソロモン海に出してきた場合は何もできなくなる。

米軍が対抗するための空母機動部隊を次にプロットしていたとしても、第2手番ではそれを南太平洋に出すだけ。第3手番になって初めて日本軍機動部隊を攻撃できる。その前の第2手番後半で日本軍は、東ソロモン海に出した空母機動部隊を使って隣接する鉄底海峡の米水上打撃部隊を空襲第1ラウンドで叩き、これを帰還させるだろう。さらに空襲第2ラウンドでガ島基地まで叩く公算が大きい。これではやられっぱなしではないか。

米軍はまず空母機動部隊をプロットし、次に水上打撃部隊をプロットしておいた方が対応しやすい。第1手番で空母機動部隊を南太平洋に出せば、日本軍が第1手番後攻で空母機動部隊を東ソロモン海に出しても第2手番でこれを叩ける。日本軍が第1手番後攻で水上打撃部隊を東ソロモン海あるいはスロットに出した場合も、米軍は第2手番で次にプロットしてある水上打撃部隊を鉄底海峡に出せば迎え撃てる。

注意すべきは、日本軍が東ソロモン海に出した空母機動部隊らしきスタック(裏返された状態で正体不明)を叩く場合、南太平洋からの空襲を選ぶのではなく、そこから東ソロモン海への移動を選び(同じ海域に入ると索敵によりその海域の全スタックが表にされる。敵対する空母同士が存在すればマストアタックで空母戦が発生)正体を確認してから同一海域での航空戦を行うこと。

どんな艦隊も攻撃を行うと帰還してしまう。日本軍がわざと囮の水上打撃部隊を東ソロモン海に出して米空母の空襲を誘い、帰還させることを狙う策略があるからだ。

もし東ソロモン海に移動して、日本軍の正体が空母機動部隊ではなく水上打撃部隊だと判明した時は空襲攻撃義務は発生しない。攻撃を選ばずそのままとどまる。今後日本軍がそこに艦隊を投入すれば、直ちに表に返され正体が分かる。水上打撃部隊が来ても東ソロモン海で水上打撃戦は発生しない。空母機動部隊に危険はない。上陸部隊が来たら一方的にそれを叩ける。空母機動部隊が来たのなら自ずと最初に望んだ空母決戦となる。

空母機動部隊(南太平洋に投入)→水上打撃部隊1(鉄底海峡に投入)→水上打撃部隊2(鉄底海峡に投入)→水上打撃部隊3(鉄底海峡に投入)あたりが標準的な米軍の編成と投入順になるだろうか。だがもちろん、これにはいくらでも裏のかきようがあるのは言うまでもない。

ガ島基地を叩け!

日本軍プレイヤーが勝つにはガ島を攻略する必要がある。主導権マーカーの位置で表される基地レベルを自軍プラス方向に持っていけば占領と見なされる。上陸部隊を鉄底海峡に進めガ島への揚陸に成功すると、それに含まれる輸送船ユニットの数(最高で2)だけガ島基地レベルを自軍の方に動かせる。

揚陸の条件は鉄底海峡から敵水上打撃部隊を排除していること、先にガ島基地を艦砲か空襲で叩き混乱させていること。また混乱させておかなければ、ターン終了時に基地レベルが敵軍方向へ1つ動き、攻略は次第に困難になってゆく。

前述の標準的な米軍の動きから日本軍を考えると、例示した日本軍が最初に空母機動部隊を投入して米空母と殴り合う選択も悪くはない。空母戦の結果は大体がエクスチェンジで互いにある程度損害を被った上でともに帰還してしまうのだ。これによって米空母機動部隊の活動を抑止したと考えればいい。

となると空母機動部隊(東ソロモン海に投入)→水上打撃部隊1(スロットに投入)→水上打撃部隊2(東ソロモン海かスロットに投入)→上陸部隊(東ソロモン海に投入)でよさそうに見えるが、そううまくはいかない。

米軍が2つ目の空母機動部隊を編成していた場合、思わぬ空襲によって上陸部隊が危機に陥る可能性がある。輸送船を失うと、ペナルティとして敵の基地レベルを1つ上昇させてしまう。揚陸資材損失により相対的に守りやすくさせたということだろう。

また敵空母抑止のため空母を使い切れば、ガ島基地は艦砲で叩き混乱させねばならない。艦砲射撃するためには、その前に同海域にいる敵水上打撃部隊を排除しなければならない。水上戦も空襲同様2ラウンド行うことができる。最初のラウンドで敵全艦にヒットを与え帰還させるか沈めれば、2ラウンド目で艦砲射撃が行える。が、これはなかなか難しい。

しかし、何と言っても日本軍は水上打撃戦力で圧倒的優勢を誇る。それを使って米水上打撃艦を削っていけば状況を有利に導ける。最初のターンでは上陸作戦は考えず、空母機動部隊以外全て水上打撃部隊を編成し米水上打撃艦を集中的に叩くのもよいだろう。徹底すれば、その中でガ島艦砲射撃のチャンスが訪れるかも知れない。

ただ揚陸は急がずとも、ガ島基地を艦砲あるいは空襲で混乱させるのは必ず心掛けること。基地が強化されれば勝利は遠のくのだ。

ネズミ輸送で活路を拓く

スタンダードなやり方がもの足りなければ、ちょっとした奇策もある。

日本軍プレイヤーはターンに1つだけ、通常の上陸部隊とは違うネズミ輸送をプロットできる。これは輸送船1ユニットだけで編成する上陸部隊で、ガ島基地を混乱させていなくても揚陸できるし、鉄底海峡に米水上打撃艦が存在していても排除することなく揚陸が試みられる。しかも通常の上陸部隊は米空母から空襲を受ける東ソロモン海にしか出せないのに対し、ネズミ輸送は空襲を受けないスロットに出せる。

ネズミ輸送が鉄底海峡に進入した時、米水上打撃艦が存在しなければ揚陸は自動的に成功。米軍ガ島基地レベルは日本軍方向に1つ動く。ただ基地は混乱していないので、そのままであればターンの終わりにレベルは1つ米軍方向に動いて元に戻る。それでも少なくとも米軍の基地レベル上昇は抑えられる。

米水上打撃艦が存在していたのならダイスで揚陸成功チェックを行う。その時点で基地が混乱していれば1のみで失敗、混乱していなければ1と2で失敗。失敗するとネズミ輸送に使った輸送船ユニットの損失によるペナルティを受ける。

リスクはあるが成功率は悪くない。通常の上陸部隊よりずっと臨機応変に使える。例えば第1ターン開始直後、第1手番後攻での投入。米軍プレイヤーが最初に空母機動部隊をプロットしていれば、ネズミ輸送の鉄底海峡突入は必ず成立する。

米軍が最初に水上打撃部隊をプロットして鉄底海峡に送り込んだ時は作戦不成立。そのままネズミ輸送をスロットに出せば、米軍第2手番で鉄底海峡の水上打撃部隊がスロットに進出して来て沈められてしまう。

その時はネズミ輸送をスロットではなく通常の上陸部隊として東ソロモン海に出す。米軍が続く第2手番で鉄底海峡の水上打撃部隊を東ソロモン海に出しても、同海域で水上打撃戦は発生しない。第2手番後攻で帰還させれば損失はない。

ネズミ輸送による揚陸が成功したなら、その後どこかでガ島基地を混乱させられれば、通常の上陸部隊揚陸成功と同じ成果を得ることになる。

米軍プレイヤーが開始直後のネズミ輸送を警戒するのを見越して、そう見せかけた重巡1ユニットを最初にプロットするのも面白い。米軍が水上打撃部隊を鉄底海峡に出したら、わざとそれをスロットに出して釣り出すのだ。攻撃を誘って帰還させることができる。

日本軍が空母機動部隊の航空戦力で全般的に劣勢であるのは否めない。米軍艦艇は損害を被っても次ターンに復帰できることが多いのに比べ、日本軍艦艇は損害を被れば2ターン後にしか復帰できない。それらが相俟って戦い半ばで日本軍機動部隊が使いものにならなくなることもある。しかし、それでも充分戦える。

いささか時期尚早ではあるが空母は敵空母をおびき出す囮と考え、徹底した水上打撃部隊の鉄底海峡突入とネズミ輸送のコンピネーションで打開するのだ。

こうしてみると『ガダルカナル!』は、両軍ともにさまざまな作戦が成り立つ意欲作であることが分かるだろう。そんな作品で敵の思考を読むカンと展開を予測する想像力、さらに全体を構想する戦略性をフルに動員して戦うのは、まさにプレイヤーの本懐なのである。

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