MENU

『2022: Ukraine』が問いかけるもの

Conflict Simulations Limited(CSL)より『2022: Ukraine』が発売されました。CSLは以前、Blue Pantherに印刷・製造を依頼するPOD(Print on Demand)出版を行っていましたが、現在は米国内の別の印刷会社で製造を行っています。『2022』は新体制後の製品です。

フルマップ1枚、カウンターは5.8インチで角丸。希望小売価格79.99ドル

本作が持つ倫理的な問題に関しては後ほど述べるとして、まずゲーム・システムを紹介しましょう。

CSLは以前からPCS(プロシージャル・コンバット・シリーズ)を自社製品の核としており、『2022』にもそれが用いられています。ルールはシンプルで、(1)主導権(そのターンの先攻)を決め、(2)両軍が航空ユニットに航空任務を割り当てたら、(3)先攻・後攻の順番で1ユニットずつ行動を取ります。行動には移動(遭遇戦=オーバーランを含む)、周密攻撃(移動せずに攻撃)、パスがあり、全てのユニットが行動済みになるか、2人のプレイヤーが続けてパスをすると1ターンが終了します。

遭遇戦・周密攻撃とも解決方法は基本的に同じで、攻撃側・防御側の直接戦闘に参加するユニットは1個ずつ(これをリード・ユニットと呼びます)で、戦闘ヘクスに隣接する自軍ユニットで支援を行えます。リード・ユニットに対して戦闘チットを引き、そのターン中の戦闘力を決めます。戦闘チットによる戦闘力は恒久的なものではなく、ターン終了時にリセットされます。

緑はロシア軍、青はウクライナ軍ユニット

戦闘力はユニットに記されたAからDまでの練度によって決まります。「練度」としましたが、装備や士気、ドクトリンを含む部隊の総合評価。上の画像に含まれているロシア軍第7親衛空挺師団の練度はBですが、ワグネルも同様にBとなっています。

戦闘力に各種修整を行い、ダイス目(8面体ダイスを使用)を加えた値を最終戦闘力として両者の値を比較。より多い側が戦闘に勝利し、敗者はその差に等しい(ただし地形や戦闘の種類に応じて半分から3分の1になる)損害点を消化します。

上の画像では少し見切れていますがロシア軍には黒海艦隊など、ウクライナ軍は軍事援助イベントによって登場するHIMARSなどがあり、これらを用いてリード・ユニットの練度を高められます(ただし黒海艦隊は使用するとウクライナ軍によって破壊されるリスクが生じます)。戦闘チットを見ればわかるように、練度の差は致命的です。西側からの援助がない限り、ウクライナ軍が頼りにできる戦闘修整は自前のドローンだけなので、序盤は相当厳しい戦いを強いられます。

どうすれば西側は軍事援助を行ってくれるのか? デザイナーはなかなかシビア、あるいはシニカルで、ロシア軍の練度CまたはDユニットがウクライナの都市を攻撃した時に残虐行為が発生すれば(25パーセントの確率で発生)、西側援助表で判定できます。

「*」はゲーム中1回だけ発生する援助

F-16を除く援助は戦闘でウクライナ軍の練度を高めるものです。ウクライナ軍航空ユニットとして使用できるF-16が登場すると、ウクライナ軍が航空優勢を得るチャンスが高まります──それまでにSAMによってロシア軍機が撃墜されていると、その確率はぐっと高まります。

現実を知るロシア軍プレイヤーは、西側に軍事援助を行う口実を与えてはならぬと、都市攻撃を控えるかもしれません。しかし、勝利条件がそれを許してくれないのです。ゲーム開始時、ロシア軍は10点を持っており、これが20点になるとロシア軍の自動的勝利、1点になるとウクライナ軍の自動的勝利です。得点源は敵ユニットの撃破、あるいは敵都市の占領。しかしユニットの撃破は容易でないため──一時的な除去は可能ですが、完全な撃破は再編成の失敗(確率12.5パーセント)のみ生じるため──、また補給源である都市を占領することでウクライナ軍の行動を抑制できるので、ロシア軍には都市を狙う必要があるのです。前述した黒海艦隊がミサイル攻撃であっさり撃破されるとウクライナ軍に1点を献上してしまうので、なおさら都市攻撃に走ることになります。

しかしロシア軍には脆弱な兵站という致命的な弱点があります。『2022』のロシア軍は鉄道終端マーカーと同じまたは隣接ヘクスにいないと補給切れとなり、練度が1低下します。計画的に兵站基地を前進させないと、たちまち前進が困難になります。ウクライナ空軍の攻撃やランダム・イベントのパルチザン攻撃(ドネツクのデブ猫!?)によって鉄道終端マーカーが後退することもあります。補給切れになったロシア軍に対し、ウクライナ軍が西側から援助を受けた武器を活用して反撃することも可能です。

「Pres」は大統領警護の特殊部隊

ただしロシア軍はキーウを占領し、ゼレンスキー大統領を亡き者にすることでサドンデス勝利を収めるという手が残されています。ロシア軍がキーウを支配していれば毎ターン終了時に判定を行い、1ヘクスの支配なら50パーセント、2ヘクスとも支配していれば75パーセントの確率で勝利します。もっともキーウにはウクライナ軍最高練度の特殊部隊が待機しているので、容易には陥落しないでしょう。

冒頭で書いたように、現在進行中の戦争を「ゲーム」にすることは倫理的な問題がつきまといます。言葉を換えると倫理的な問題にしたい人がいます。事実、本作のデザイナーであるレイ・ワイス氏がこのプロジェクトを発表した際、相当なヘイトが浴びせられたと、デザイナーズ・ノートに記されていました。それについては信頼できるデザイナー/デベロッパー仲間と討議を繰り返し、問題なしとの結論に至ったそうです。その結論は、BANZAIマガジン第16号に掲載した記事「ウォーゲームを『楽しんで』もいいものだろうか?」(アダム・リチャーズ氏)に記載されたフォルコ・ランク氏の意見と同じものでした。

現実の出来事──これには戦争も含まれます──を検証する本や雑誌、映画、演劇を楽しむのと同じことです。むしろ道徳に関して、ゲームをそれ以外のメディアから切り離して論じようとするのは何故なのか、その理由を聞いてみたいものです。

まだ戦争が続いている以上、『2022: Ukraine』がウクライナ戦争を正確にモデル化しているとは言えません。が、西側のウォーゲーム・デザイナーが1年が経過した時点のこの戦争をどのようにモデル化したのかを知ることができるという意味で貴重であり、実際にプレイすることで、我々もこの戦争に関してあらためて学ぶことも多いのではないかと思います。

※デザイナーズ・ノートによると、『2022: Ukraine』の売上げの15パーセントは、ウクライナにおける地雷除去活動の寄付するということです。

Comment

コメントを残す

目次