昨日の投稿で「歴史的正確性」と「歴史的信憑性」について触れましたが、BANZAIマガジンでも2回、作品を提供してくれたタイ・ボンバ氏は後者に全振りしたタイプのデザイナーになるでしょうか。最新作『Stalin’s First Victory』(World at War第91号)のルールを読んで強くそう感じました。なお商品名は『Stalin’s〜』ですが実際には2 in 1で、しかもメインはもう1つのゲーム『Battle of Taierzhuang(台児荘の戦い)』です。
『Stalin’s First Victory』は1929年11月に起きた中ソ紛争・満洲里の戦いをテーマにしています。満洲里を守る中国軍第15、第17旅(団)に対し、航空機・戦車の支援を受けたソ連軍が猛攻を加え、一方的な勝利を収めています。この戦いをどのようにゲーム化したのか? 歴史的正確性にこだわるなら、火力の違いや諸兵科連合、指揮統制などをルールに盛り込むことになるでしょう。その結果、やはり史実どおりの展開となる。しかしタイ・ボンバ氏は別の視座を与えてくれます。
ゲーム開始時、中国軍プレイヤーは史実どおり2個旅で戦わなければなりません。この戦力でソ連軍の勝利条件──9つある目標ヘクス全てを支配する──を防ぐのは相当困難です。そこで中国軍プレイヤーに1つのオプションが与えられます。この戦場のすぐ近くにいたにもかかわらず、戦力温存のため投入されなかった第2軍を投入できるのです。
そうなると第2軍の投入待ったなしのように思えますが、不安定な国内事情や共産党の活動を考えると虎の子が失うわけにはいきません。第2軍1ユニットの除去は、中国軍になって1失点につながるのです。つまり1ユニットの犠牲で目標ヘクス2つを守れば帳尻が合いますが、守り切った目標ヘクス数と失った第2軍のユニット数が同じなら、第2軍を投入した意味がなくなるわけです。
いつ、どのタイミングで増援を投入するのかプレイヤーに決断させる要素を加えることで、ゲームとしても、歴史的な可能性としても興味深い内容になっています。
『Battle of Taierzhuang』は1938年に起きた台児荘の戦いをテーマにしており、台児荘攻略を企図した日本の第2軍が中国の第5戦区軍に包囲され撤退を余儀なくされた戦いです。同じテーマの作品として、AtOの『Storm Over Taierzhuang』(2007)がありました。
このテーマの難しいところは、歴史的再現性にこだわると、日本軍が三方から敵から現れるのを承知で台児荘に突入しなければならないという、ゲームとしての不自然さが生じてしまうことでしょう。この問題を、やはり歴史的信憑性で解決しています。
日本軍は全8ターンのうち、第6ターンまでに9つある台児荘中心ヘクスの1つに一時的にでも突入しなければなりませんが、この条件を達成すれば、最終ターンに同ヘクス1つと鉄道線を分断すれば勝利します(台児荘全ヘクスを支配しても勝利できますが、恐らく不可能で、これを狙うと史実のように包囲されて「スターリングラード」になることでしょう)。中国軍は、ゲーム終了時に2つある日本軍の師団司令部の補給線を切れば勝利します(師団司令部1つを除去しても勝てますが、日本軍プレイヤーが慎重にプレイすればまず大丈夫でしょう)。
この勝利条件に、両軍の増援登場をランダムにすることで(中国軍は登場位置・登場兵力ともに不確定)、当時起こったことをそのまま描くのではなく、起こり得たことを描こうとしています。これについてはルールブックのデザイナーズ・ノートに詳細が書かれていますが、BANZAIマガジンでもお世話になっているPlayer’s Aidのインタビューでタイ・ボンバ氏が語っているので、そちらを引用したいと思います。
If the Japanese player is therefore willing to gamble the Chinese reinforcements will not reach the scene until late in the game, the best thing for him to do is mask it and push past it along the north-south railroad in order to reach the east-west railroad (and victory) as soon as possible. If, however, the Chinese reinforcements show up early enough – and there’s an equal chance they will – that will give him the strength to counterattack into the Japanese flank.
Alternatively, the Japanese player can hope his own reinforcements will show up quickly enough to allow him to immediately lunge into the town and take it – either all of it or enough of it to sufficiently neutralize its operational threat to his flank. If he gets in there, though, and gets bogged down – well, you will then see how this fight historically became the Chinese prototype for Stalingrad.
The Player’s Aid
日本軍プレイヤーが中国軍の増援到着が史実より遅くなるほうに賭けるなら、鉄道を全速力で南下して勝利条件である東西に走る鉄道を押さえにかかると良い。が、中国軍の増援到着がそれなりに早いと──そしてその可能性は十分にあるが、そうなると中国軍は日本軍の薄く伸びた側面に対して反撃が可能になる。
あるいは、日本軍プレイヤーは第5師団が速やかに到着することを期待して台児荘を完全攻略する、または側面に対する作戦的脅威を無効化する程度に攻略することもできる。しかしそれに躓くようだと、史実のような中国版プロトタイプの「スターリングラード」が起こってしまう。
デザイナーの歴史解釈がプレイヤーにとっての「歴史的信憑性」につながるかどうかはわかりませんが、この2作に関して言えば、誠実な取り組みであるように感じられました。まだプレイしたわけではないので、その取り組みがうまくいっているかはわかりませんが、元を取った(?)気分です。
Comment