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気分はファルケンホルスト

本稿は「このシミュゲがすごい! 2014年版」に掲載された鹿内靖氏のレビューです。10月20日発売の『ノルウェイ侵攻』に関するプレイのヒントも記されています。ご参考にしてください。

総統に呼びつけられるプレイヤー

『ノルウェイ!』(編註: 2013年に発売した時のタイトル)は、1940年4月のドイツ軍によるノルウェイ侵攻=ヴェーザー演習作戦をテーマにした作品だ。ノルウェイ侵攻といえば、そのプランニングに関して有名なエピソードが残されている。

第一次大戦時フィンランドで戦った経験を持つファルケンホルスト歩兵大将は1940年2月21日昼、突然ヒトラーに呼び出される。同日午後5時までにノルウェイ侵攻作戦の計画案を作成して提出せよというのだ。午後1時に退出したファルケンホルストはベルリンの本屋でベデカー社の旅行ガイドブックを買うと、それを参考にホテルの部屋で検討。指定された時間に計画案をヒトラーに提出し、作戦を任されることになったという。

計画案成立の実相は、そう単純なものでもないと思う。39年12月にはOKWがノルウェイ侵攻の素案策定をしており、翌40年1月には海軍がより本格的な計画案をまとめている。そうした基礎があってのことであろうからだ。

ノルウェイ侵攻に強い関心があったのは、これからの西方作戦にかかりきりだった陸軍より、むしろ海軍の方だった。そこで北方作戦に乗り気でない陸軍の顔を立てる意味もあり、陸軍の誰かが作戦案を作る事実が必要だったのかも知れない。

しかし、その役をいきなり振られたファルケンホルストは驚いたに相違ない。そして、この『ノルウェイ!』をプレイしようとした時、筆者もそれと同じ驚きを感じた。これをやってみようとするプレイヤーは、誰もがそれを感じるのではないだろうか。

そこがこの作品のすごいところであり、醍醐味となるところなのである。

基本システムはシンプルだ。一つのターンにできることは1部隊の出撃(マップへの登場)か、マップ上の1部隊の移動(空軍の移動=配置を含む)のみ。移動先の海域(エリア)や目標都市に敵がいれば戦闘となり解決する。ドイツ軍、イギリス軍の順でそれを 15 ターン、つまりそれぞれ交互に 15 手番繰り返して勝利条件達成を目指す。

戦闘では移動した部隊(ユニットあるいはスタック)が攻撃側となり、移動先エリアに存在する全ての敵ユニット、スタックが防御側となる。戦闘解決は最初に潜水艦が雷撃、次いで航空戦力のあるユニット(空軍と空母)が空襲、そして水上艦艇が移動力の高い順に砲撃を、それぞれ防御側先攻で行う。またそれらを行う代わりに回避を選び、敵のいない隣接エリアに退却することもできる。どちらかがそこからいなくなるまで続く。

上陸地点(目標都市)のノルウェイ守備隊に対する戦闘はより簡単。守備隊に砲台があれば、まずそれが上陸部隊を持つ艦船ユニットを砲撃。結果適用後、上陸部隊戦力と守備隊戦力(アントライドで1〜3戦力)を比べる。上陸部隊が勝っていれば守備隊を除去、拠点占領となる。守備隊戦力以下であれば戦闘継続中となり、追加上陸あるいは空挺降下(空軍の移動による攻撃)を行って戦力優越を満たすまで占領とはならない。

ドイツ軍が勝利する方法は二つ。ノルウェイ侵攻と通商破壊艦突破だ。目標都市6つの内1つにでも上陸戦闘を試みたら侵攻となり、都市占領3つ以下だとドイツ軍敗北。占領4つ以上でVPによる勝敗判定に持ち込める。敵ユニットに与えた損害がVPで多い方が勝つ。ただしドイツ軍には占領5都市なら5 VP、占領6都市全部なら10 VP が追加される。

通商破壊艦突破では、ドイツ軍が1隻でも突破させればVPによる勝敗判定に持ち込める。敵ユニットに与えた損害と、無傷で突破した通商破壊艦がVP対象で多い方が勝つ。どちらの場合も同点ならイギリス軍勝利となる。

方向性の違う二つの選択肢がドイツ軍にあることで戦略的駆け引きの幅が拡がり、両軍の取り得る作戦も多様なものとなる。非常にきれいにまとまっている。しかしそれ程驚くようなものか、というのが率直な感想となろう。

だが実は最大のポイントはゲーム開始前にある。ドイツ軍、イギリス軍の両プレイヤーとも一番最初に作戦のための部隊編成を行わなければならないのだ。マップに登場させる順番もここで決定しなければならない(ただ空軍の移動だけは、逐次どこへ割り込ませてもよい)。編成を行ってしまえば一切の変更は許されない。作戦中の分割や統合もできない。

わずか15手番でドイツ軍は、戦略的意図を隠して敵を翻弄しつつ損害を抑え四つ以上の目標都市攻略を企図する。1手番では1部隊が1エリア移動するのみ。1部隊をマップに登場させるだけでも1 手番。エリアから目標都市への上陸も1手番が必要とされる。研ぎ澄まされた計画性が求められるのが分かるだろう。

もちろんそれはイギリス軍プレイヤーにもいえる。同様の厳しい制約の中でドイツ軍の意図を探り、先回りして阻止するのだから、開始前のプランニングがどれだけ重要かは想像に難くない。

普通の作品ならセットアップも増援も大筋は定められているものだ。しかし、ここでは明確な構想のもとにアイディアを実現する部隊編成、投入プランまで全てを創案する。プレイヤーが作戦に全責任を負うわけで、悩ましくも楽しい驚きを感じることになる。

2013年に発売された初版の表紙。冊子中央にマップが綴じられている体裁だった。

戦史上の人物と課題を分かち合う

部隊は3種類。潜水艦隊、水上艦隊(空母含む)、上陸戦力を持つ水上艦隊だ。これらをそれぞれ1部隊4ユニット以内、同一種だけで編成する。潜水艦と水上艦を一つの部隊にはできないし、水上艦と上陸戦力を持つ水上艦を一つにはできない。ユニットとしてはそれ以外にドイツ空軍があるが、これは単独で扱われる。

当たり前であるが、全てどこでどう使うかを前提に編成しなければ作戦意図は達成されない。戦史上の人物と同じ課題、悩みを分かち合うのである。これこそシミュレイションゲームが表現すべき最も重要なものの一つではないか。

例えば通商破壊艦だが、史実では海軍のレーダー提督が巡洋戦艦シャルンホルストとグナイゼナウをナルヴィク攻略部隊に随伴させるよう主張。それら艦艇群を発見したイギリス海軍は通商破壊艦突破を警戒し、はるか北方に戦力を展開したためドイツ軍は侵攻時に奇襲を維持できた経緯がある。

この作品でも、早期に巡洋戦艦シャルンホルストとグナイゼナウの通商破壊艦隊を投入するのは有効だ。イギリス軍の対抗艦隊投入に先んじて突破ポイントのある北部海域に送り込めば、それだけで勝利条件達成の可能性もあり、史実同様陽動の効果もある。

そこで、ドイツ軍第1手番(ターン)はバレンツ海南部への空軍出撃が妥当となるだろう。空軍は単独でエリアの支配ができる。支配したエリアには部隊を直接投入できるので(1エリアずつ移動させていかなくてもよい)、第2手番で通商破壊艦隊をそのバレンツ海南部へ投入。第3手番はそれを突破ポイントのある大西洋に隣接したバレンツ海北部へ。

だが裏をかき(空軍以外の部隊は全て裏返しに置かれ、原則として戦闘するまでは正体は明かされない)、上陸戦力を持つ水上艦隊をこうやってバレンツ海北部へ送り込む作戦もある。最も遠いこのエリアでの上陸作戦は、早期でないと困難になりやすいからだ。

一方イギリス軍はどうするのか。イギリス軍に空軍は与えられていないので第1手番は、イギリス海域に通商破壊艦に対抗し得る巡洋戦艦レナウン、レパルスを含む高速打撃艦隊を投入。第2手番はそれを通商破壊艦突破ポイントのある大西洋へ。

第3手番は充分注意しなければならない。それをバレンツ海北部に移動させドイツ艦隊に戦いを挑んではいけない。

このケースではドイツ軍が防御側となる。防御側先攻なのでドイツ軍がまず砲撃か回避かを選択する。通商破壊艦なら回避を選んで、今イギリス艦隊が空けてきたばかりの大西洋に離脱し戦闘を終わらせてしまう。

ドイツ軍は次の第4手番で、通商破壊艦を大西洋から突破ポイントへ移動させてVPを獲得。これで後はなにも行わず、そのVPだけで勝利できる。イギリス軍に打開策はなくなる。

ドイツ軍がそこに送り込んだのが上陸戦力を持つ艦隊であったとしても、ドイツ軍は回避を選び、回避移動による上陸をナルヴィクかトロンハイムに行うだろう。みすみすドイツ軍に一つの手番を節約させることになる。

それらを考慮すると高速打撃艦隊は大西洋にとどめ、ドイツ軍が通商破壊艦突破を狙い自ら侵入してくる場合に備えた方がよい。イギリス第3手番では、バレンツ海北部にいるのが上陸戦力を持つドイツ艦隊だった場合のための対策を取るか、あるいはやっかいなドイツ空軍を牽制する空母主体の艦隊を投入するか……というように、自軍と敵との作戦とその意図、その経過を想定し計画立案を行ってゆく。

ゲームマーケットの試遊卓で早速対戦。当時のコンセプトはゲームマーケット来場者を意識したもので「今日買って今日遊ぶ」だった。

創造性の発揮にこそ本懐あり

この作品でも経験を積み重ねてゆくと、もちろん両軍ともにある種の定石らしきものは見えてくる。しかしだからといって、それで作品の戦略的限界が見えてしまうわけではない。分かった時点で次の段階が出てくる。つまり定石の認識を利用して罠を仕掛ける余地がたっぷりある。第一次大戦のシュリーフェン・プランがあったからこそ、第二次大戦のマンシュタイン・プランが奏功したように。

戦いが始まってからは意図を読み合い、自分の作戦をアジャストしながら勝利条件達成を目指す面白さがある。判断を誤ると、あるいは裏をかかれると一瞬で敗北する。決定的ななにかが起きる前に途中で突然敗北を悟ることもあり、勝負や作戦の機微にふれる興味深さもそこに加わる。

場合によっては作戦立案にかけた時間より短時間で勝負がつくこともある。だが上陸侵攻作戦とはそういうもの。入念な計画と準備に根本がある。

こうした本質への絞り込みが見事だ。そこを争点とするプレイも抜きん出て楽しい。計画立案から始まるので、絶対に漫然としたプレイにならない。自ずと能動的な創造性の発揮を促してくれる。

創造性こそ戦略や作戦の楽しみであろう。またシミュレイションゲームの楽しみでなくてなんであろう。普段なにげなくプレイしている中で忘れがちな大切なもの、根本的意義や面白さを再認識させてくれる作品なのだ。

ノルウェイ侵攻をテーマにしたシミュレイションゲームは、これまでにもいくつか発表されているが、本質を捉えた点でこの作品がベストと思う。

プレイアビリティは非常に高く、ルールも簡潔で洗練されている。洗練されているのはそれにとどまらない。マップやユニットも大変美しい。特に艦橋部分のシルエットだけで表現した艦船ユニットのデザインは斬新で都会的センスに溢れている。

このように美しく洗練された作品で、システムを縦横に使いこなし高度な戦略性や作戦的思考を競うことを能わずして、徒に膨大なルールの作品に傾倒するのは戦略家、作戦家としての敗北といえるのではないだろうか。

その意味で『ノルウェイ!』は常にファイティングポーズを取り続け、戦うことを決して忘れないプレイヤーのための作品だ。

シミュレイションゲームは野蛮で洗練された趣味である。

日常の中にだらしなく寝転ぶような趣味ではない。ダウンをはねのけ懸命に立ち上がろうとしてみせる趣味なのだ。

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