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キャンペーン視点のクルスク(2)

本稿は「BANZAIマガジン」第12号に掲載された鹿内靖氏のレビューです。IED社より日本語版が発売されるとのことで、購入の参考にしていただければと思います。(画像提供はDRAGOON氏)

史実どおりに発動すると

セットアップには第3次ハリコフ戦直後の状況が反映される。赤軍はクルスク周辺に二重、三重の戦線を張りめぐらせてはいるが、陣地はまだ完成していない。またスターリングラードから続いた激戦で、マップ上の全ユニットが1ステップにまで損耗している。

ドイツ軍も機械化ユニットは全てが1ステップの損耗状態。歩兵は全体の7分の1ほどがステップ・ロスしている。歩兵にはまだ継戦能力がありそうな一方、機械化は疲労困憊といった様相である。

最初のAターンは泥濘なので機械化ユニットの攻撃力は半減。移動も鉄道移動以外は1ヘクスしかできない。ドイツ軍がハリコフに続き、即座にクルスクをやりたくてもできなかったのが納得できる。

そこで、まずは歴史どおりのクルスクをやったらどんな結果になるのか試してみることにした。デザイナーズ・ノートに両軍の取った歴史的なゲーム上での態勢が載っていたので、それに従って対戦を行う。

勝敗はVP(勝利得点)によって判定される。ゲーム終了時に相手側の大都市を占領していれば1つにつき1 VP、相手より多くのユニットを除去していれば1 VP、そして戦略目標を達成していれば1 VPが与えられる。

赤軍のVPからドイツ軍のそれをマイナスし、赤軍が7 VP以上獲得していれば同軍プレイヤーの勝利。赤軍が6 VP以下ならドイツ軍プレイヤーが勝利する。モスクワ占領というドイツ軍だけのサドンデス勝利条件もある。

【クルスク前のA〜Dターン】

ドイツ軍は3、4月が“休息”で戦力を回復し、5月の“再配置”と6月の“展開”で攻撃予定地点への戦力展開を行う。歩兵は全てが完全戦力に戻り、機械化は半数が完全戦力に戻った。

赤軍は3月から6月の4ターンの間ずっと“休息”態勢を取り、目立った動きを見せない。それによって歩兵19ステップ、機械化8ステップの補充を得る。半数近くのユニットが2ステップの完全戦力に戻る。特にクルスク周辺の戦力回復が優先的に行われた。

【「城塞」発動の第1ターン】

こうして迎えた7月初旬、ドイツ軍はついに“交戦”態勢を取る。“交戦”の代償に除去する歩兵1ステップ、機械化1ステップはこのターンの補充からまかなう。それでもここでは機械化ステップの大量補充があったので、機械化も全てが完全戦力になった。

望める限りの最大戦力を得たドイツ軍は、クルスク外郭陣地に攻撃をかける。と同時にヒトラーの提案していた「豹」作戦の一部をハリコフ南東部で敢行。さらに、まだ回復しきっていない赤軍ユニットの除去を狙って北のヴェリキエルーキ方面、南のタガンローク方面でも陽動の小攻勢をかける。

3月には未完成だった赤軍の陣地も、7月ともなれば全て完成している。戦力万全のドイツ軍が攻撃をかけても戦闘比は2対1から4対1程度にしかならない。さらに完成した陣地には、戦闘結果のDRあるいはDRL(防御側は後退に加え1ステップ・ロス)をEXに変える効果があり、EXが多発した。

その結果、ドイツ軍はクルスクの第一線陣地をほぼ突破、赤軍6個軍(ユニット)を壊滅させたものの、5ステップという少なからぬ損害を被る。

赤軍の態勢は“再配置”。このターンの補充(歩兵3ステップ、機械化2ステップ)を受け取って戦力を整えながら、強力な機械化軍ユニットを前面に出し反撃の準備を行う。

反攻の出撃門となる突出部

【第2ターン】

7月中旬から下旬にかけてのドイツ軍の態勢は“休息”!? そうか、ここで攻勢をあきらめてしまったわけか。知っていたにもかかわらず驚きを覚える。攻勢中止の意味を実感した気がした。成果を得るまで続けられなければ作戦は存在価値を失ってしまう。マンシュタインがくやしがる気持ちも少しは理解できた。

ドイツ軍は“休息”で余分に得た歩兵補充を使い、防御に備える。機械化ステップは他戦域に引き抜かれたことを反映し、このターンの補充はマイナス1。装甲軍団1つをステップ・ロスさせる。

一方、赤軍は“交戦”態勢となって反攻に転ずる。補充から4ステップ分を“交戦”の代償に支払ったため、回復は歩兵2ステップにとどまる。

反攻の矛先は、クルスク突出部の外郭陣地を蹂躙し防御を固めたドイツ軍歩兵に向けられた。ドイツ軍の歩兵軍団は最強でも8戦力。完全戦力になった赤軍の機械化軍(戦車軍、親衛軍)は12戦力。2ユニットで攻撃をかけるだけで3対1の戦闘比が成立する。

そこに、ゲーム中赤軍プレイヤーには6個(ドイツ軍プレイヤーには5個)与えられる攻勢マーカーを投入し、戦闘比を4対1あるいは5対1に引き上げる。

2カ所への攻撃結果はDRLとDEと、いずれも成功。戦闘フェイズに続く全ユニットの移動フェイズで、クルスク突出部先端に穿った穴から後続の機械化軍や歩兵軍が続々と突破を果たす。

【第3ターン】

8月上旬のドイツ軍の態勢は“再配置”。かろうじて戦線を立て直す。しかしながら突破口から溢れ出た赤軍は、ドイツ中央軍集団にとっては南側背後から、ドイツ南方軍集団にとっては北側背後からの極めて危険な進出となって、効果的な防御ラインが引けない。

突出部からのさらなる進出のため、ドイツ中央、南方両軍集団とも包囲される危険性が出てきた。なるほど、クルスクの意味とはこういうことだったのか。

赤軍は引き続き“交戦”態勢。さすが連続作戦を分かってらっしゃる。このターンの補充から“交戦”のための4ステップ分を消費。それでも歩兵3、機械化1ステップの回復ができた。

先陣を切る機械化軍が戦果を拡大すべくドイツ軍に襲いかかる。広がり切っていたドイツ軍の戦線は寸断されてゆく。戦闘フェイズ後の全ユニット移動フェイズで赤軍はドニエプル河に迫り、その先鋒はキエフやドニエプロペトロフスクにも届こうとしていた。

【第4ターン】

8月下旬のドイツ軍の態勢は、またしても“休息”! それなりの補充を得たものの、移動フェイズがないので拠点防御しかできない。

赤軍は“再配置”。戦闘ですり減ったユニットを補充で回復させながら、包囲できるドイツ軍を包囲、攻略目標へと戦力を進めてゆく。

【第5ターン】

9月中旬。ドイツ軍の態勢は“展開”。整えられる戦線は整え、赤軍の機動を阻害することで防御を試みようとする。

赤軍は“交戦”で攻撃を再開し、勝利条件都市を陥落させ始める。

【第6ターン】

10月上旬の両軍はともに“交戦”。ようやく赤軍に反撃を開始したドイツ軍だったが、すでに消耗状態にある同軍にかつての力強さはなかった。それを受け止めても、赤軍はまだ攻勢能力を維持していた。赤軍の機械化軍がいくつか壊滅したが、ドイツ装甲軍団のいくつかも返り討ちにあい、勝利条件都市のいくつかも陥落した。

【第7ターン】

10月下旬の地表状態は泥濘。両軍“展開”で敵情をうかがう。

【第8ターン】

地表が通常に戻った11月上旬は、再度、両軍“交戦”。ドイツ軍の補充は歩兵がマイナス2ステップ、機械化がマイナス1ステップ。“交戦”態勢の代償を含めればドイツ軍は、歩兵3、機械化2ステップをマップ上のユニットから除去した上で反撃しなければならなかった。赤軍を抑えられるわけもなかった。

赤軍も苦しんでいた。このターンの補充だけでは“交戦”の代償が消化できず、マップ上から歩兵1ステップを除去する。最期の力をふり絞り、最低戦闘比での攻撃も敢えて行って戦果をもぎ取る。

最終的に赤軍は7 VPで作戦的勝利を収めた。

戦略目標(クルスク)の周辺部。ゲーム開始時は赤軍の全ユニット、ドイツ軍の多くのユニットが損耗している

(続く)

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