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ウォーゲームで振り返る昭和100年・終戦80年

2. 日本歩兵聯隊長

BANZAIマガジンでもお馴染みのブロガー、Rocky Mountain Navy Gamer氏独自の分類によると、Skirmish WargameのジャンルではRPGとウォーゲームの間に「アドベンチャー・ウォーゲーム」が存在します。ウォーゲームなので戦闘に焦点が当てられていますがナラティブ要素が強く、キャラ作成要素もある……2023年にへくすとだいすから出版され、2025年にボンサイ・ゲームズからリリースされた『日本歩兵聯隊長』は、まさにそのジャンルの作品です(扱う戦闘の規模は「Skirmish」から外れるかもしれませんが)。

プレイヤーは本作で、架空の歩236聯隊の聯隊長を務め、中国戦線で10の任務に挑むことになります。

キャラ作成要素

聯隊長のパラメーターは「威厳値」のみで、部下に対してどの程度のリーダーシップを発揮できるのかを表します。任務の達成やイベントでこの値は増え、逆に任務の未達、部下への命令強要などで威厳は低下します。聯隊長の戦闘指揮能力? それはプレイヤー自身の力量であり、パラメーターが用意されているわけではありません。

直接の部下となる大隊長は、指揮統制値と戦闘修整値を持ちます。指揮統制値は様々な理由で生じる混乱から回復する能力を、戦闘修整値は攻撃時のコラム・シフトになります。聯隊長は各大隊長(任務により最大4人登場)の特性を理解した上で、指示を出さなければなりません──例えば、指揮統制値の高い大隊長が率いる大隊には混乱必至の強行軍を指示しても大丈夫ですが、そうでない大隊には遠慮がちに指示を出す、など。

ただし、特定の大隊に攻撃や突撃ばかり指示を出していると、「なんでウチだけが!!」と大隊長が不満を募らせ、思いどおり動いてくれなくなります。「命令」を出せば動かせますが、聯隊長の威厳値が低下し……と組織的な悪循環まっしぐら、聯隊としての戦闘力が低下する恐れもあるのです。

戦闘要素

ユニットの最小単位は中隊。一度損耗すると回復は極めて困難なので指揮官たるもの「兵隊さん」を大事にすること!!

各任務は地形カード5枚 x 5枚で表される地図上で行います。地形には平地、林、高地、村、河川などがあり、プレイするたびに状況が変化します(!!)。任務によっては特定の地形が特定の場所に存在することもあります。

ユニットは大隊が基本。ただし、様々な理由で聯隊長が中隊を直轄運用することもあります。

各ターンは(1)日本軍の移動、(2)日本軍の回復、(3)日本軍の攻撃、(4)中国軍の行動、の4フェイズで構成されています。なお、日本軍の移動後には中国軍による対応射撃があり、攻撃位置についた大隊や中隊が制圧(混乱)されることも。直後の回復フェイズで回復できれば次の攻撃フェイズで攻撃を行えますが、回復できなければ攻撃できません。大隊長の指揮統制能力が重要なのはこのためです(直轄中隊は聯隊長の威厳値を用いて回復を行うので、聯隊長の威厳も大事です)。

中国軍の行動はカードを引いて判定。前進、後退、攻撃、回復の4パターンがあり、ルールに従って行動が規定されています。

中国軍、勝手に後退してくれることが多いですがそれは史実どおり(デザイナーズ・ノート参照)。ただし侮っていると……。

ナラティブ要素

本作がユニークなのはこの「ナラティブ要素」です。まず、一般のウォーゲームでいう「勝利条件」が存在しません!! と書くと驚かれるかもしれませんが、全10任務を終えた後の聯隊長の威厳値と各大隊長の不満値合計で「あなたのその後・戦後」を判定するシステムになっているのです。これによりSSSからOまで18ランクの結末がナラティブで用意されており、聯隊長としての自分の人生を振り返ります。

任務の合間には「幕間悲喜劇」があり、例えば慰労会で兵が聯隊長をネタにしてぶち切れたり、あるいは笑って度量を示したり、大理石の応接セットを見つけて自分のものにしようとしたり……といった戦闘以外のイベント(ナラティブ)も発生します。

帝国陸軍の聯隊長といっても中身はこんなです。我々会社員の上司となんら変わりません。ただ、そのお仕事は生死にかかわってくる業務ですから、その反応も大きくなるわけで。攻撃させるにしてもローテーションを考えないと「なんでウチばかり!」とむくれます。そして聯隊長も人望があれば部下は動くし、人望がなければ部下はそっぽを向く、と。(デザイナーズ・ノートより)

『日本歩兵聯隊長』は戦中と戦後をつなぐ希有な作品です。昭和100年/戦後80年の節目に、是非プレイしてください。

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