本稿は「BANZAIマガジン」第15号に掲載された鹿内靖氏のアフターアクション・レポートです。本作は2人で対戦しても面白いのですが、真骨頂はフランス vs イギリス&プロイセンをそれぞれ1人が受け持つ3人対戦。本日より3日間、3回に分けてお伝えいたします。(画像提供はDRAGOON氏)
歴史のコースを変えるには
史実に近い行動を取れば、史実に近い結果を得る。これは、本作の描き出す戦いの全体像が間違いではない証左といえる。しかし本作でフランス軍プレイヤーが勝利するには、歴史のコースを変えるなにかが必要ともいえる。
コースを変える可能性のあるファクターの1つに、同盟軍指揮官の連携が考えられる。歴史では同盟軍間の連携はうまく運んだ。本作でもフランス軍がプロイセン軍を指向して進むと、同盟軍間の連携を容易にする状況を作る。
では、連携を乱すことで違う結果が得られるのではないか。2人の同盟軍プレイヤーが判断に悩む状況を作るため、プロイセン軍ではなくイギリス軍を指向する策はどうだろう。
初動の具体例を示すなら、第1ターンには越境せず、マップ中央を貫くモブージュ〜ニヴェル〜ワーテルローにつながる街道上に軍団を集結させる。騎兵斥候群はフランス軍の意図を隠蔽するため、東のナミュールにつながる街道上と、西のアトにつながる街道上を進ませる、といったものになる。
勝敗はVPで決する。ゲーム開始時のVPは同盟軍サイドにプラス10。ブリュッセル、リニーなど、同盟軍が自軍VPエリアを10ポイント分占領しているからだ。フランス軍がそれらを陥とせば、その分だけVPは10からマイナスされる。
また、フランス軍が同盟軍VPエリアのいずれか2カ所を取るまでは、同盟軍サイドに毎ターン1 VPがプラスされていく。これは、後にフランス軍が直面するであろうオーストリア軍、ロシア軍の脅威を考えれば理解できる。フランスはイギリス、プロイセンをすぐにでも脱落させねばならなかったのだから。
VPは敵戦力を撃破することでも変化する。両サイドの撃破した敵戦力数を比べ、その差の分だけVPから増減される。
戦闘で同盟軍指揮官ブロック(ウェリントン、ブリュッヒャー)が除去されると、同盟軍サイドからそれぞれ2 VPがマイナス。ナポレオンが参加した戦闘でフランス軍が敗北すると、同盟軍サイドに3 VPがプラスされる(ナポレオン・ブロックが除去された場合は同盟軍のサドンデス勝利)。
これらの結果、VPが0以下になればフランス軍の勝利、それ以外は同盟軍の勝利と判定される。
イギリス軍は、プロイセン軍のように簡単に集結できる状態では配置されていない。マップ北端に近いブリュッセル、ニノーヴェから、西端のアト、中央付近に位置するブレーヌ・ル・コント、ニヴェルと広く分散している。
フランス軍がイギリス軍を指向して中央、あるいは西寄りに進出すれば、同盟軍は目標を絞り切れず広く展開する。展開の過程で逐次それらを叩いてゆけば、敵野戦軍の撃滅と、その結果可能になる重要拠点(VPエリア)確保を実現できそうに思える。
フランスのフィルムノワール『さらば友よ』の中に、ワーテルローというあだ名の女子大生が出てくる。大事な試験でいつも落第するからという。本作で敗北続きのフランス軍も、この方策で及第点に手が届けばいいのだが。
自ら罠にかかったフランス軍
6月14、15日(第1〜4ターン)
ありきたりな表現を借りるなら、フランス軍のすべり出しは順調だった。プランどおりニヴェル〜ワーテルローへとつながる中央付近の街道を進む。プロイセン軍は、突出するように配置されていたシュタインメッツやツィーテンをリニー方向へと回収し、イギリス軍は、マップ端にいるヒルやアクスブリッジを中央に呼び寄せようとする。
欺瞞のため東西に放っていた騎兵斥候に対し同盟軍は、同じように騎兵斥候で応じているようだ。ブロックを立てて使い、ユニットの正体を敵に明かさない戦場の霧ルールを取り入れていても、本作をよく知る同盟軍プレイヤーのお二方らしく、どれが騎兵斥候なのかを正確に読み切っている。
第3ターンにはフランス軍の3個軍団が、ニヴェルとカトル・ブラ両地点を同時に狙えるところまで到達する。イギリス軍はフランス軍の西寄り(つまりイギリス軍方向)への突進を警戒し、カトル・ブラを放棄。同地点にはプロイセン軍2個軍団が進出した。
フランス軍の進撃コースは当初のプランより少し東寄りにずれていた。プロイセン軍の増援が遅延するイベントがあり、強化の遅れるプロイセン軍なら叩けばチャンスが広がるのでは、との迷いが生じたからである。
誘惑に抗し切れずフランス軍は、第4ターンに3個軍団をカトル・ブラへと送り込む。
プレイヤーが1度の手番で行えるアクションは、1スタック(ひとかたまりのユニット、1ユニットでもよい)に移動させるか、戦闘させるか、移動と戦闘をさせるかの3つ。
移動アクションの場合は、自軍デッキからカード1枚をめくって出た数字が移動力となる。1ユニットだけを動かすならその数字を使えるが、複数ユニットをまとめて動かすとなると、2ユニットならその数字マイナス1が移動力に、3ユニットならマイナス2が移動力に〜と、動きは鈍っていく。移動力0で全く動けず、活動終了となることもある。
フランス軍カードに記されている数字の平均値は3。大軍を一気に投入するのは難しく、移動と戦闘のアクションを選べば即座に戦えるが戦闘に不利な修整がつく。こうした事情から、プロイセン軍2個軍団に対し3個軍団と優勢を得たカトル・ブラでの会戦も、次ターンの戦闘アクションに持ち越す。
ナポレオン直率の2個軍団、ドルーオとヴァンダムは西寄りのイギリス軍を追ってハレ、ワーテルロー方面に進んでいる。
次々と歯車が狂っていく
6月16日(第5、6ターン)
第5ターン主導権フェイズ。自軍デッキからめくるカードの数字で勝てば、最初の手番を得られる。そうすれば同盟軍がカトル・ブラに増派する前に叩ける。フランス軍カードの数字平均は3。同盟軍カードのそれは2.5。先手を取る可能性は高い。
ところが、これに負けてしまう。同盟軍は先手を取ってカトル・ブラへと追加の軍団を送り込む。軍団数でのフランス軍優位は失われた。
戦闘もカードで解決される。1〜4戦力を持つ軍団ならカード1枚、5〜8戦力の軍団ならカード2枚を自軍デッキから引ける。引いたカードに記された疲労数と撃破戦力数が、敵に与える損害になる。より多くの敵戦力を撃破した側が会戦の勝者となり、敗北した側は退却しなければならない。
戦術的優位はフランス軍にありとの評価か、フランス軍カードが敵にもたらす撃破戦力数の平均の方が、同盟軍カードがもたらす撃破戦力数の平均より少し高く設定されている。この時点でのカトル・ブラ会戦は、恐らく互いに6枚程度のカードを引いての勝負となるだろう。カードの枚数が同じであれば、まだフランス軍に分がある。
フランス軍は回ってきた手番でカトル・ブラでの戦闘を決行。同盟軍に与えた損害は4戦力、フランス軍が受けた損害は2戦力。撃破戦力数で優ったものの、同盟軍は“死守”カードを使って退却を拒否、カトル・ブラ陣地を維持する。結果を受け、次ターンの主導権フェイズで先手が取れれば、再度のカトル・ブラ攻撃でも優勢との感触を得る。
ナポレオン率いる2個軍団は、イギリス軍2個軍団の守るワーテルローに突入。次ターンのカトル・ブラ、ワーテルロー二重会戦を決意する。
しかしながら、それは虚しい決意であった。まず第6ターンに、イベント“皇帝の体調不良”が発生。このターンはナポレオンの能力が使用できない。主導権フェイズでも負けて先手を逃す。フランス軍は構想に一貫性を欠いたあげく運にも見放された。いや、一貫性を欠いたからこそ、運が味方しなかったのか。
同盟軍はさらにカトル・ブラにユニットを送り込む。ウェリントンとブリュッヒャーまでが同地で相まみえる始末。2人の指揮官ブロックの連絡線が直接通じると、作戦会議を行えるだけではない。手札の交換までできる。ここに至ってフランス軍はカトル・ブラ攻略を断念。同地から撤退せざるを得なかった。
ワーテルローでも、ナポレオンの能力が使えないとあって攻撃を次ターンに延期する。ナポレオンの敗北によるVP損失を恐れたのだ。
しかし今になってみれば、これは非常に大きな過ちだった。ナポレオンの能力がなくても、戦闘時に両軍の引けるカード数はほぼ互角だったろう。ならば勝つ可能性はそれなりにあった。時に追われるフランス軍は、強襲して活路を開かねばならなかったのである。
(続く)
記事の最後にお得な情報も!? 18日の投稿をお楽しみに!!
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