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モスクワや盤上に見る夢の跡

本稿はコマンドマガジン第132号(2016年12月20日発売号)掲載の鹿内靖氏の記事「モスクワや盤上に見る夢の跡」から、『モスクワ電撃戦2』に関する箇所のみを転載させていただいたものです。全文を読まれたい方は、是非同誌をお買い求めください。

作戦計画をプロットする

『モスクワ電撃戦2』は、タイトルに“2”と謳われているものの完全な新作だ。前作『モスクワ電撃戦』から変わらないのはデザイナーとテーマ、タイムスケール、ユニットスケール(1ターン2カ月、ただし作戦が発動された6月だけは1ターン1カ月。軍団・軍規模)のあたりだけ。システムは一新されている。

前作が1941年6月から42年8月までを扱い、マップにレニングラード、モスクワ、スターリングラードを含むのに対し、“2”は42年4月まで、レニングラード、モスクワ、ロストフの範囲になる。期間と範囲が整理されて、ドイツ軍のバルバロッサ作戦と赤軍の冬季反攻に焦点が絞り込まれた。シークエンスは次のとおり。

  • 兵站フェイズ(兵站カード選択/部隊再建/増援受取/鉄道移動)
  • 移動フェイズ
  • 戦闘フェイズ
  • 突破フェイズ(機甲・機械化1ユニット、1スタックごとの移動あるい戦闘)
  • 補給フェイズ(自軍補給切れユニットの除去/損耗ユニットの活性状態への回復)

このシークエンスだけ見れば、ありふれたシステムに思えるかもしれない。しかし、これらの行動のうち部隊再建、鉄道移動、そして突破フェイズの機甲・機械化ユニットの移動あるいは戦闘といった重要なパートは、兵站フェイズのカード選択であらかじめプロットしていなければ実行できないのだ。

つまり、毎ターン作戦計画を立てて行動することが求められる。プロット自体はカードを選べばすむので簡単だが、選択できるカード枚数はターンによって制限されるため計画に悩むことになる。

両軍プレイヤーに用意されるのは、陣営によって異なるそれぞれ6枚の兵站カード。1枚のカードにはいずれか1つの使用できる複数の用途が示されている。ドイツ軍兵站カード“補充”には、部隊再建/鉄道移動/装甲アクションと記してある。該当フェイズ中にこれ1枚を消費すれば、1ユニットの部隊再建/鉄道移動/1装甲ユニットの移動あるいは戦闘が可能となる。

第1ターンのドイツ軍は準備を整えた状態なので6枚全てを選択できる。どのフェイズにどのカードをどう使って突破するのか、最も効果的な攻撃計画立案が課題になる。

例えばこうだ。北から中央にかけての戦線。まずドイツ第4装甲軍、第16軍、第9軍で国境ヘクス1502の赤軍(第3機械化軍団と第11軍のスタック)を攻撃。兵站カード“航空支援”を投入し(1枚目)、戦闘比を7:1(必ずDE)に上げて撃破。突破口を穿つ。

続く突破フェイズに、兵站カード“補充”の装甲アクションを(移動に適用して)使い(2枚目)、その突破口から第2装甲軍をミンスクに隣接させる。さらにもう1枚の“補充”(3枚目)を使った装甲アクション(戦闘に適用)で、第2装甲軍にミンスクを守る赤軍(第13軍)を攻撃させる。

攻撃に際し2枚目の“航空支援”を投入(4枚目)、戦闘比3:1を確保する。6分の5の確率でミンスクを攻略できるが、失敗した場合は“戦術的優位”を使い(5枚目)ダイスを振り直す。これを含めれば36分の35で攻略は成功する。

最後に、装甲2ユニットに対し同時適用できる特別な“電撃戦”を切って(6枚目)、ミンスクを攻略した第2装甲軍をまだ守られていないスモレンスクに無血入城させ、国境線で待機していた第3装甲軍をミンスクに進める。

こうしてバルバロッサ開始早々の6月中に、グデリアンが夢見るようなミンスク〜スモレンスク・ラインを撃ち抜く大突破も可能なのだ。ただしこのプランだと作戦資源を中央に集中した結果、南北では国境線からわずかに前進するにとどまる。モスクワには最短ルートかも知れないが、最善策とはいえないだろう。

そんなモメンタムも天候・補給状況などの悪化により、降雪の第4ターン(11月/12月)が訪れると選択できるカードは3枚に激減。前ターン(9月/10月)は泥濘で進撃がとまっているため、それでも前に進み攻撃しなければ勝利は望めない。

ではどの3枚を選び、どう攻撃プランを立てるのか。攻撃に作戦資源全てを使い切ってしまっていいのか。それとも降雪ターンに予想される敵の全面反攻(赤軍の攻撃に1シフトが加わる)に備え、防御のため取っておくのか。などなど作戦立案の悩みと楽しみは毎ターン尽きない。

キャンペーンの視点

もう1つ特徴として挙げられるのは、ユニットは攻撃を行うと必ず活性状態から損耗状態に裏返される点だ。損耗状態のままでも攻撃可能だが、戦力は活性状態に劣る。

防御する場合でも、積極防御力(活性状態の攻撃力)を使うと損耗状態になってしまう。消極防御力(損耗状態と同等の戦力)で守れば損耗はしないが、戦力には劣る。すでに損耗状態となっているユニットの防御にペナルティはない。

いずれにせよ、ユニットはなるべく活性状態に回復させておくのが重要になる。回復の条件はプレイヤーターン最後の補給フェイズに、自軍補給源に存在しているか隣接していること。補給源は自軍盤端の後方地域か、そこから5ヘクス以内の補給線の通じる自軍支配下都市。さらに、そこから5ヘクス以内の補給線ネットワークを形成できる自軍支配下都市群。

補給フェイズに、5ヘクス以内の補給線を引けないユニットは即除去という厳しさもあって、ミンスクを攻略しなければスモレンスクへは行けないし、キエフを攻略しなければハリコフには行けないということになる。

自軍補給源から5ヘクス以内の都市攻略に成功すれば、そのユニットは補給フェイズに活性状態に戻れる。失敗すると損耗状態のまま相手プレイヤーターンを迎え、反撃に脆弱な側面を晒す。場当たり的攻撃は1個軍の危機にもつながる。攻撃にも防御にも補給にも、要衝となる都市確保の大切さを認識せざるを得ないだろう。

勝利条件に於いて、キャンペーンの視点はより明確に示されている。

勝利は最終ターン終了時にドイツ軍の獲得したVP(ヴィクトリーポイント)で判定される。10VP以上でドイツ軍プレイヤー勝利、9VP以下なら赤軍プレイヤー勝利。

基本的にVPは、ドイツ軍が補給線を維持した状態で支配している都市から得られる。ただし除去されたままのドイツ軍ユニットがあれば、それだけVPはマイナスされる。興味深いのは、最終ターン終了時点で活性状態にある装甲軍2ユニットごとに1VPが、都市のVPに加えて得られるところだ(装甲軍は4つあるので2VPまで上積み可能)。

戦いの次の段階に向けた展望を示唆するもので、戦略的打撃戦力の中核となる装甲軍を夏季攻勢に備えて再編し、温存できるかどうかを意味する。

だが、これが難しい。装甲軍は最も強力なのだ。VPをめぐり都市への反攻を退けるのに投入したくなる。しかし、攻撃や積極防御をさせれば都市を確保する率は上がる代わり、装甲軍は必ず損耗状態になってしまう。歩兵軍で守るとどうしても戦力に劣り、今度は都市失陥の可能性が高まる。

史実のドイツ軍が確保した都市は8VPに相当。除去されたままのユニットがないとすれば、4個装甲軍全てを再編できた状態で10VPに届き勝利条件を満たす。2ないし3個装甲軍の再編なら9VPまで。史実以上に前進しなければ敗北する。

作品の勝敗ラインはぎりぎりのところにあり、キャンペーンを戦う長期的展望を見据えた対処と、短期的成果をバランスする難しさが(もっとも、だから作戦術が大事なのだが)表される。しかも、そのジレンマが勝敗を競う面白さに貢献している。