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戦略級米西戦争、あるいはウォーゲームの面白さについて

特に告知は出していなかったのですが、ありがたいことにゲームをご投稿いただくことがあります。リソース不足で検討するまで時間をいただき、デザイナーの方々をやきもきさせることも多いのですが……(督促の音声ファイルがDMで届いた時には驚かされました)。そうした投稿作のひとつ、2024年中にどうにか形にしたいのがこちら、『THE 98′ DISASTER』です。

キューブは部隊を表します。関係ないユニットは「要塞塔」を表すために使っています。

米西戦争をテーマとした戦略級ゲームで、1890年から1898年までのキューバとフィリピンをめぐり、スペイン軍・反乱軍(アメリカ軍を含む)に分かれて戦います。カードは使用しますがカード=ドリブンというわけではなく、戦略的状況を創出するためにイベントを用いるというもの。自分のカードと相手が出すカード、それにキューバとフィリピンの隔てられた戦場との兼ね合いによって、自然と多彩な展開が盤上に現出するようになっています。

さらに面白いのが、ゲームが始まるのは1890年からですが、キューバでは「大戦争(Guerra Grande)」と呼ばれ、フィリピンでは「カビテの反乱(Cavite Mutiny)」と呼ばれた1868年から1889年までの独立闘争をプレゲーム・イベントとして処理するので、毎回ゲーム開始時の状況が変化するようになっています。

けれど、キューバは東西、フィリピンは南北に延びているだけでゲーム展開は単調になるんじゃないの? という懸念がありました。が、実際にプレイするとそんなことはありません。アメリカが介入すると反乱軍は制海権を得て海上移動が可能になり、迂回機動が可能になります。スペイン軍は序盤は自由に海上移動を行えますが、サンチャゴ/カビテの海戦に敗れると(カード・イベント)制海権を失います。一時的に制海権を奪取できる機雷イベントがあるのですが、機雷で米艦が沈没するとアメリカの新聞が「スペインの悪逆非道な振る舞い」を新聞で報じて世論が沸騰、アメリカのさらなる軍事介入につながるリスクもあります。

補足: 機雷による米艦撃沈は米西戦争開戦のきっかけとなったメイン号事件をイメージしているものと思われます。実際の米西戦争は1898年(ゲーム最終ターン)に始まりましたが、ゲーム上はその前からアメリカが軍事的介入を行うことになります。

戦闘能力はアメリカ軍>スペイン軍>反乱軍>現地軍で、アメリカ軍 vs 現地軍なら文字どおり鎧袖一触。しかし反乱軍が勝利するためにはキューバとフィリピンの両方でスペインの影響力を排除する必要があり、個々の戦闘で勝利するだけでは不十分。スペイン側にしても、キューバかフィリピンのどちらかに主力たるスペイン軍部隊を集中すれば良さそうなものですが、そうすればアメリカ軍の対応を容易にするだけで、かえって状況を悪くします。イベント、全体の状況、自分と相手の作戦遂行能力を踏まえて現在、そして将来の課題解決に頭を悩ませる、非常に優れた作品でした。

ここから少し余談。

我らがホビーを何と呼ぶべきか、以前徳岡氏と話をしたことがあります。「ウォーゲーム」はわかりやすいけど少し浅い気がするし、「ストラテジーゲーム」だと歴史性が感じられず、「シミュレーションゲーム」は範囲が広すぎる。本当は「コンフリクト・ゲーム」が良いのだけど馴染みがなくて伝わりにくいよね……という内容だったかと記憶しています。

コンフリクトには「(武力による,比較的長期にわたる)戦い」という意味があり、確かに我らがホビーのテーマですし、「〈二つ以上のことが〉相いれない,矛盾する」という意味では、我らがホビーの(面白さというニュアンスの)興味深い点であり、「コンフリクト・ゲーム」というネーミングは、見事なダブルミーニングで我らがホビーを表しています(訳の引用部はweblioより)。後者の代表例が作戦級ゲームにおける時間と空間のどちらを優先するかという問題で、この『THE 98′ DISASTER』なら2つある戦場のどちらを優先するか、どのイベントをいつ用いるか、スペイン側ならアメリカの世論を刺激する対応を取るか否か、といったプレイヤーの葛藤になります。そして後者のコンフリクトが歴史に寄り添っているからこそ、我らがホビーは一層興味深いものになっているのです。

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コメント一覧 (1件)

  • ウォーゲーム(戦争ゲーム)という言葉は実態を表すものではありますが、あまりにもダイレクト過ぎて一般市民から忌避され易く、ひいてはゲーマー人口の減少(我々の様なブーム経験者の死亡等による自然減の未補充)に繋がるものと考えます。
    かつての我々のようにタミヤのミリタリーミニチュアシリーズやWLシリーズでミリタリーに興味をもった若年層はいないかもしれませんが、大河ドラマなどの影響により戦国時代等に興味を持つ若年層は相当数存在するものと思われますので、そのような層をゲーマーに取り込めるようなネーミング(「ヒストリカルゲーム」等)がよいと考えます。

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