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入門者におすすめのウォーゲーム

Twitter(現X)などで「入門者におすすめのウォーゲーム」といった話題が出ると、ネットミーム化した大沢たかおみたいになっている人も多いでしょう。自分もその一人です。

(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

それはさておき、シミュレーションゲームをシミュレーションとゲームとで線引きした時(この線引きが必要かどうかは別として)、ゲーム寄りの新作が増えている印象です。例えば〈アドミラル・グラーフ・シュペー〉追撃戦をテーマにした『The Hunt』。ウォーゲーマー向けにシステムを解説するなら「プロット式とカード=ドリブンを組み合わせた非対称ゲーム」。カード=ドリブンをメカニクスに持つことで、両軍にリソース管理の課題を与えたのがミソ。効果的なイベントを序盤で用いると戦闘で苦しむあたり、戦術では戦略的劣勢を覆せないということを実感できます。同じテーマをデザインしたことがある身としては、「そうきたか!」と感心することしきりでした。

イタリアのウォーゲーム雑誌Para Bellumから別冊として発売された『WunderWaffen』も「ゲーム寄り」の作品です(と、デザイナーが公言しています)。

FIW(Federazione Italiana Wargame)受賞作

ヴンダーヴァッフェン──ドイツ軍の秘密兵器、あるいはびっくりどっきりメカというタイトルの「ゲーム寄り」の作品と聞いて、最初は『Die Atombombe』のような兵器開発のゲームかと思いましたが、第二次欧州大戦末期戦のゲームです。しかも4人プレイ可能。

ぱっと見はそれとわかりにくいですが、ドイツを中央に置いたエリア式のヨーロッパのマップです

プレイヤーはドイツ、アメリカ、イギリス、ソ連のいずれか1つ(4人未満の場合は1つまたは2つ)を受け持ち、ドイツならいかに敗戦を遅らせるか(ひみつ兵器が完成しても逆転はあり得ないのです)、連合国なら誰が戦後の主導権を握るのかを競います。そう、連合国と言っても所詮は寄り合い所帯。協力してドイツを叩きながらも、戦後のことも考えなければならないのです。

ゲームは2段階に分かれており、第1段階は6ターン行ってから得点を計算し、その後、第2段階でさらに4ターンを行って最終的な得点を計算、勝敗を決めます。第1段階でリードしすぎると、第2段階でボコボコにされるのはお約束。

ゲーム開始時、各プレイヤーは18個のカウンターを持ち、毎ターン3個ずつを使用します。カウンターには各種軍隊(歩兵・戦車・砲兵・航空機)の他、政治やドイツの場合は研究開発といった特別な働きをするカウンターがあります。カウンターの裏面は自分以外のプレイヤー用になっており、毎ターン使用する3個のうち1個を、必ずこの裏面で使わなければならないのです。このあたりは大戦末期の混乱、連合国同士の足の引っ張り合いと見なすことができ、ゲーム的には予想外の展開をもたらしてくれます。アメリカ軍またはイギリス軍プレイヤーが裏面のドイツ軍戦車カウンターを使って、「いや総統が行けって言うからさ」とブダペストに反撃を行ったりするのです。

ドイツ軍のひみつ兵器。原爆開発も不可能ではありません

1つのエリアには3つのボックスがあり、3つ全てのカウンターが置かれるとそのエリアの支配が確定します。連合国が2つまたは3つのボックスにカウンターを置いていれば、より多くのカウンターを置いている国がそのエリアを支配し、得点します。さらにその国はそのエリアを足がかりにして次のエリアへ侵攻可能になります。同数なら政治力が上の国がエリアを支配します。

上の例を続けると、例えばブダペストにソ連軍とアメリカ軍が1個ずつカウンターを置いていて(この時点では支配は確立せず)、次の手番でソ連軍プレイヤーがブダペストに自分のカウンターを置こうと思っています。その前にアメリカ軍プレイヤーが裏面のドイツ軍戦車をブダペストに置けば、連合国2対ドイツ1で連合国のブダペスト支配が確定します。ソ連とアメリカが1個ずつカウンターを置いていますが、アメリカのほうが政治力が上なら、ブダペストはアメリカが支配することになるのです。もちろんアメリカ軍プレイヤーは表面のカウンターのどちらかを使ってブダペストを支配できますが、どうせ使わなければならない裏面を有効に活用することで、表面の2個を自由に使えるというわけです。このような事態を念頭に置きつつ、プレイしなければなりません。

ドイツは、一度奪われたエリアは奪回できませんが、エリア支配の条件を満たせば「要塞化」を行えます。要塞化されたエリアはボックス全てに連合国カウンターを置かないと支配できなくなるので、連合軍の前進は停滞させられるでしょう。

ドイツは様々な方法で研究開発を進めることができ、開発点が手に入ればお好きなひみつ兵器を受け取れます。デザイナーによれば、ひみつ兵器を4つ以上開発したドイツはまず負けないそうなので、連合国としては空軍などを活用して研究開発を妨害する必要があります。が、空軍は通常の侵攻でも必要になるため、誰がその貴重なリソースを使うのかで駆け引きが生じるでしょう。

軍事作戦ではなく、大戦末期の連合国の主導権争いとドイツのひみつ兵器開発に焦点を当てた本作。かなりユニークです。

こうしたゲーム寄りの作品は入門向けウォーゲームというわけではありませんが、何かのきっかけになるかもしれませんし、何より様々な仕掛けや工夫が面白く、自分のような古いゲーマーにとっては良い刺激になるので、どんどん出版されて欲しいものです。

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