フランスのパートナー、Nuts Publishingから『We Are Coming, Nineveh(WACN)』が届きました。2016年10月から始まった、イラク政府軍によるモスル奪還作戦をテーマにした2人用(ソリティア・ルールあり)ゲームで、タイトルはその作戦名です。ゲームは2017年2月からの、モスル西部の戦いに焦点を当てています。
クレジットにはデザイナーが4人名を連ねており、お馴染みBrian Train氏の他、PaxsimsのRex Brynen氏が加わっていることからもわかるように、いわゆる「プロの犯行」ということになるでしょうか──プロフェッショナル・ウォーゲームとして、その筋の方の教育・学習にも活用してもらうことが意識されています。ということを書こうとしていたら、本作のレビューを踏まえて現代の市街戦(アーバン・オペレーション)をウォーゲームで学ぶ有用性を説いた記事(Retaking Nineveh: Seriously on Games)がPaxsimsで紹介されていました。
Nuts Publishingからは既にプロがデザインした『Urban Operations(UO)』を出版しており(第2版はいつできるんだよ、という話はさておき)、民生用ウォーゲーム・ユーザーに新しい視座を与えてくれました。本作に関してはN村氏のツィートまとめをご参照ください。WACNもUO同様、プレイヤーに対するルールの負荷は軽く、目的も明確ではあるのですが、その目的を達成するための選択肢はプレイヤー自身で探さなければならず、その中から自己の責任において決断を下すというプレッシャーは重いという、非常に教育的な作品に仕上がっています。
WACNの詳しい紹介は次号のBANZAIマガジン誌面に譲るとして、特徴的な勝利条件(勝敗判定)について紹介しましょう。
勝敗に関連して、時間(いつ旧市街を掃討できたか)、損害(イラク治安部隊の出血)、巻き添え被害(民間人や都市にどれだけの被害が及んだか)の3つの指標が用意されています。
WACNには2つの勝利条件が用意されており、どちらか1つを使っても、あるいは両方を組み合わせても良いことになっています。シンプルなのは勝利点方式で、3つの指標のスコアを合計してその多寡で勝敗を判定します。より少なければイラク治安部隊(ISF)が、多ければDaesh(ダーイシュ)が勝利します。
もう1つが「Competing Narratives」、ナラティブ比較とでも言いましょうか。3つの指標それぞれの最終スコアにナラティブが用意されていて、それをベースにプレイヤー同士で判断する、ということになります。例えば「時間」のスコアが7-8なら、
ISFはDaeshの抵抗や市街地作戦(アーバン・オペレーション)の困難さにもかかわらず、見事な作戦を展開しました。史実よりもはるかに速やかに都市は解放されたのです。
となります。スコアが10なら、
この作戦は過酷で困難なもので、Daeshは旧市街やモスル西部の他の地域で依然、激しく抵抗を続けています。これが史実の結果です。イラクのハイダル・アル=アバーディ首相は7月10日、正式に勝利を宣言しましたが、その後2週間にわたり、いくつかの地域で散発的な戦闘が続きました。
となります。3つの指標全てに関して2人で検証して勝敗を決める、というわけです。3つ指標があるので、そのうち2つで史実より良い結果が得られればISFの勝利、そうでなければDaeshの勝利にしてもよさそうなものですが、現実がそのように単純なものでない以上、対戦した両者が協議するのは非常に有意義なことと考えます。例えば、史実より早く掃討を終わらせたけれど、巻き添え被害(コラテラル・ダメージ)がはるかに大きすぎて、バグダッド政府に対するスンニ派の不満が爆発したらどうなるか、など。一定の基準は必要としても、ナラティブで解決するのは学習・教育的にも有意義でしょう。
コマーシャルとプロフェッショナルの境界線上にあるウォーゲーム、これからも注目していきたいと思います。
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