「このシミュゲがすごい!! 2026年版」で紹介したゲームが、通販で購入可能になりました。ライター様の許可を得て、当該記事をwebで読めるようにしました。まずは『The Twelfth Battle』(リンク先はa-game)。
戦車なき電撃戦の限界: 試行錯誤がプレイ結果に反映されるのがスゴい!!
文・写真|和栗南華
正直に申し上げますと、ウォーゲームをやり始めて10年、2025年ほどゲームをやらない年はありませんでした。理由は写真のとおり、3月に生まれた娘がかわいくて、かわいくて……。目下、育児戦線で奮闘中です。

ですが、幸運にも3作の語りたいゲームに出会うことができました。前号と今号で紹介しております、翻訳させていただいた『カイザークリーク』と『グローバル・ウォー』の2作。どちらもベンマディ節全開で最高でした。そして3作目がHexasim社の『The Twelfth Battle: the Caporetto Campaign 1917』です。
どんなゲーム?
1917年の「第12次イゾンツォの戦い」いわゆる「カポレットの戦い」の作戦級ソリティア・ゲームです。プレイヤーは同盟軍を指揮して、システムが動かす協商軍と戦います。デザイナーはいま一番アツいかもしれない、南北戦争会戦級ゲームのブラインド・ソード・システム(BSS)のデザイナーであるハーマン・ルットマンです。
1ターンは2~7日、ゲーム後半になるほど1ターンあたりの日数が増えます。マップはポイント・トゥ・ポイントで、東西はイタリアとオーストリアの国境からマントヴァまで約200kmが描かれています。ユニットの規模は明言されていませんが、おおよそ師団〜軍団です。ユニットの数は両軍合わせて40個程度と少なめです。ユニットには所属する軍(Army)を示す軍IDが印字されており、活性化はその軍ごとに行います。イタリア軍は第1, 2, 3, 4軍、同盟軍は第10, 11, 14軍とイゾンツォ軍に分かれています。
同盟軍、協商軍の順で交互に活性化を行います。同盟軍はサイコロを2個振って、先にその活性化で使用できるアクション・ポイント(AP)を決定してからどの軍を活性化するかを指定します。活性化した軍のユニットが1個ずつアクションを行います。1個のユニットは3回までアクションを行えます。
アクションには移動、砲撃、突撃、回復の4種類があり、地形やそのエリアの補給状態によって消費するAPの量が変化します。戦闘(砲撃、突撃)は「6出ろシステム」ですが、ヒットに必要な出目が地形やユニットの士気によって異なります。APがなくなったらその軍の活性化は終了です。
協商軍はどの軍が活性化するかはチットプルで決め、どんな行動をするかはカードで決めます。
プレイヤーの目標はアルプスの協商軍戦線を突破して平野部へ突進、ヴェネト州を席巻しローマへの道を開くことです。

第12次イゾンツォの戦いとは?
本作のスゴいところは簡単なルールでWWIの限界を表現しているところにあるのですが、それを説明するために実際の第12次イゾンツォの戦いについて少し紹介させてください。
イゾンツォとは現代のスロベニアとイタリアの国境をまたいで流れ、アドリア海に流れるイゾンツォ川のことです。1915年のイタリア参戦以来、アルプスとアドリア海に挟まれたこの地域を巡って、イタリア軍とオーストリア軍は何度もぶつかってきました。その戦いはあまりにも少ない戦果のために多大な犠牲を要求される苛烈な消耗戦でした。
戦いを重ねるうちに徐々にイタリア軍が優位に立ちはじめ、17年8月の第11次イゾンツォの戦いではついに川を越えて橋頭堡の獲得に成功しました。一方のオーストリア軍は次の攻勢に耐えられるか自信がないという状況にまで追い込まれていたのです。
そこでオーストリアを崩壊から救うためにドイツ軍が派遣されました。そして、1917年10月にドイツ軍6個師団を中心に第14軍が編成され、これを主力として第11次会戦で疲れ切っていたイタリア第2軍を攻撃したのが第12次イゾンツォの戦いの始まりです。
この攻撃は大成功し、同盟軍はそれまでの停滞が嘘のように150km前進し、30万人のイタリア軍兵士が捕虜になりました。
ドイツ軍の攻撃が成功した理由は「浸透戦術」にあります。毒ガスと短時間で猛烈な準備砲撃で前線のイタリア軍を混乱させ、ドイツ軍突撃隊がイタリア軍の弱点を突破して前線を切り裂きました。イタリア軍を指揮するカドルナはなかなか後退を認めようとせず、前線の部隊は状況を立て直せないまま、孤立し次々と潰走、降伏していきました。
エルヴィン・ロンメルの『歩兵は攻撃する』によると、彼はこの戦いで自分たちよりも数の多い敵集団に「降伏しろ!」とハッタリをかまして無力化しています。1940年のフランス戦にも似たようなエピソードがありますが、まさしくカポレットの戦いは仏戦と同じく浸透戦術が大成功した一例であり、戦車なき電撃戦なのです。

ゲームではどのように表現されるか?
ゲームにおいて、このドイツ軍の突破は重砲兵ユニットの準備砲撃と突撃隊ユニットの突撃による第0ターン攻撃で表現されています。通常の突撃は、攻防ともにサイコロを振ってより多くのヒットを相手に与えたほうが勝利になりますが、突撃隊の突撃は防御側の反撃を無視して、1発でも攻撃が命中したら相手を退却させられるという効果の強力なものになっています。重砲兵も通常の砲撃より当たりやすいです。
よほど運が悪くない限りは、カポレットでの最初の成功は再現できると思います。問題はこの次です。

WWIの限界
30万人が捕虜になる大敗北に直面したイタリア軍では兵士たちの反抗も増えました。崩壊一歩手前どころかまさに崩壊中です。
ですが、イタリアは降伏しませんでした。敗戦の責任を負って解任されたカドルナの後任のディアズの働きかけでイタリア軍は再編成され、150km後方のピアーヴェ川で踏みとどまって新しい防衛線を築きました。
増援の英仏軍はそこもどうせ突破されるだろうと踏んで、さらに後方にいましたが、予想に反してイタリア軍は奮戦し、結局同盟軍はピアーヴェ線を突破できずにイタリア戦線は再び停滞しました。
わたしはここにWWⅠの機動戦への回帰をめざすあらゆる努力の限界を見ます。「戦車なき」電撃戦で突破の主力を担うのは生身の歩兵です。突破によって突撃隊は激しく損耗しますし、徒歩で行う追撃の速度には限界があります。
一方で戦線が突破されたという情報は有線・無線で素早く伝わり、防御側は態勢を立て直します。遮二無二前進する攻撃側の先頭部隊に、補給や砲兵は追いつけず、疲労と消耗で進軍速度は低下します。新しい防衛線にたどり着くころには奇襲効果は失われてそこを抜くことはできず、再び停滞が始まります。
浸透戦術で鉄壁の塹壕は突破できるようになりましたが、新しい機動作戦を行う前に敵が復活してしまうのです。カポレットのような大成功でさえ、そうなのです。
カポレットがイタリアにトドメを刺せなかった特有の問題としては、ドイツ軍はもともと食糧不足が深刻で、豚を3匹徴発できたことを将軍が喜ぶような状況であったことや、オーストリア軍の働きが不十分であったこともあげられます。オーストリア軍は1カ月かけてピアーヴェ川北方のモンテ・グラッパを攻撃しましたが撃退されました。

(再び)ゲームではどのように表現されるか?
ピアーヴェでのイタリア軍の復活は、イタリア軍ユニットを不死身にするという思い切った方法で表現されています。彼らは5ステップしか持たない代わりに、撃破されても除去されずに何度でもピアーヴェ線に復帰します。
一方の同盟軍ユニットは10ステップありますが、ダメージが積みあがって撃破されれば除去されます。強力な突撃隊も2回突撃をしたら必ず除去されるので、必然的に同盟軍の戦闘力は戦いを重ねるごとに減衰していきます。
さらに、補給難も同盟軍を苦しめます。本作の各エリアには3段階の補給状態が定められており、アルプスの前線エリアは緑色の補給良好、丘陵地帯のエリアは黄色の制限補給、さらに南下した平野部のエリアは補給難になっています。
移動と突撃では消費するAPは変化しませんが、砲撃と回復は補給良好なエリアでは1 AP、補給難では3 APかかります。ピアーヴェ線の隣接ポイントは全て補給難です。ゲーム後半のピアーヴェ線の争奪戦ではイタリア軍が損害を顧みずに砲撃や突撃で同盟軍に出血を強いて、同盟軍は回復に手いっぱいという状況に陥ります。攻撃の余裕はありません。
地理と結び付けて前進による補給難易度の上昇を表現するルールは、片方の陣営に思う存分に前線をぶっ壊せる戦力を与えても、ゲーム自体は壊れづらいというメリットがあります。攻守交替を演出する方法の主流は増援ですが、地理的補給ルールも簡単に導入できて、かつ攻撃側プレイヤーの性格が出るので好きな仕組みです。
前進にまつわるジレンマは、ドイツ軍の離脱とカドルナの解任のルールによってさらに強調されています。
ドイツ軍の離脱は、プレイヤーの獲得したVPが100を超えると、西部戦線での攻勢のためにドイツ軍が1ユニットずつ帰って行ってしまうというルールです。
カドルナの解任は協商軍のアクションを決めるカードに関するルールです。カードにはカドルナ・デッキとディアズ・デッキがあり、ゲーム開始時には消極的なアクションが多いカドルナ・デッキを使い、同盟軍がVPを獲得してカドルナの解任レベルが高まるとカドルナが解任されて、積極的なアクションが多いディアズ・デッキに切り替わります。
ディアズ・デッキのアクションにはサイコロ2個を追加して砲撃と突撃を行う「Assault」命令があり強力です。またディアズ・デッキ使用のタイミングで増援の英仏軍も動き始めます。彼らは前進したり後退したりでなかなかピアーヴェ線までたどり着きませんが、ゲーム中でも屈指の戦闘力をもつユニットです。
こういった、不死身のイタリア軍と前進するほど苦しくなる仕組みによってピアーヴェ線での停滞が再現されており、同盟軍が陥った戦車なき電撃戦の限界にプレイヤーは直面します。最初の突破と前進の成否だけではなく、限界を認めて防勢に移行するタイミングの判断が問われます。

墺軍の進撃は遅々として進まないが、彼らを前進させないとゲーム後半の協商軍の反撃に耐えられない。
正統派ソリティア
ソリティア・ゲームの良い点として、自分の気が済むまで試行錯誤を繰り返せるところがあります。もっと速くドイツ軍が前進する方法はないだろうか。それとも敢えてゆっくり前進してカドルナを引っ張ったほうがいいのか。オーストリア軍を活躍させる方法はないだろうか。重砲兵や突撃隊をアルプスに投入したらどうだろう。本作もさまざまな試行錯誤が可能です。
繰り返しプレイするほど点数が伸びる正統派ソリティアという印象を受けました。ルールは24ページありますが、例が豊富でページ数ほどは重くありません。第一次世界大戦に興味のある方はもちろん、第二次世界大戦の電撃戦に興味がある方もその源流を探る意味でプレイしてみてください。

その後のイタリア戦線
イタリアとオーストリアの戦いはイゾンツォからピアーヴェへ戦場を移してまだ続きました。ですが、オーストリアの国力はすでにボロボロ。カポレットからちょうど1年後の1918年10月、ヴィットリオ・ヴェネトの戦いでイタリア軍がオーストリア軍戦線の突破に成功してオーストリアは降伏しました。
戦勝国イタリアは南チロルやトリエステを編入し「未回収のイタリア」問題は解決した……かのように見えましたが、参戦時の約束だったフィウメとダルマツィアの編入はパリ講和会議で認められず、この歪みは20年後に爆発することになるのでした。

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