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政治的主張かシミュレーションか

セットアップやユニットの評価(や一部システムとmessyなルール)を見直した第2版の日本語版が準備されているという噂がある『2022: Ukraine』のレーティング&コメントにも同様の傾向があります。BANZAIマガジンに以前掲載されたデザイナーズ・ノートによると、デザイナーとしては特定の政治的主張を表現する場としてゲームを用いたのではなく、21世紀に第二次世界大戦、あるいは第一次世界大戦を想起させるような「地続き」の戦いが展開されたことに驚いて、冷戦後の戦いを再現するために開発した自身のシステムを用いて2022年におけるロシアによるウクライナ侵攻の表層を再現したところ、思いの外マッチした、ということです。

『Defiance』は、政治的主張のためのゲーム出版ではもちろんなく、軍事的のみならず社会的、(特定の主張を抜きにした)政治的にも示唆に富んだ、興味深い作品になるのではないかと期待されます。

一方で我々はかつて西側と呼ばれた地域に暮らしており、しかし基軸が失われつつある現在、どこで暮らしていようと左右から様々な意見がぶつけられる。容易なことではありませんが、なるべくバイアスを廃して、物事を見つめていきたいものです。


政治的な意図があると誤解を招きそうなゲームが昨年、中国のKilovolt Designから発売されました。ノモンハン事件を扱う『当頭一棒(簡体字を繁体字に直しています)』です。調子に乗った奴らの頭に一撃を食らわせて猛省を求める、的な意味になるでしょうか。わかったか、関東軍。

1939年7月から2カ月間のハルハ河周辺の戦いをカバーする作戦級ゲームで、カード=ドリブン・システム(CDS)が用いられています。作戦級ゲームでCDSと言えば、『冬戦争の切り札』など、砂漠のキタキツネ氏による「切り札」シリーズでお馴染み。

BANZAIマガジンのWorks in Progress欄に記されているように、砂漠のキタキツネ氏の「切り札」シリーズの一作『ルントシュテットの切り札』が製作進行中なのですが、肝心のご本人と連絡が取れない状態となっています(2月末には直接お目にかかっているのですが)。本稿を読まれていましたら、メールの返信をいただければ幸いです。

さて『当頭一棒』は全7ターン、各5ラウンドを行います。カードが配られるのはターンごとなので、ターン単位では手札を使って5ラウンドをいかに戦うか、という中期的な思考が求められます。長期的な思考は、全7ターン(キャンペーンの場合)をどう戦って勝利条件を満たすか。短期的な思考は各ラウンドにおけるカードの使い方と、カードによって発動される戦闘または補給フェイズにおける部隊指揮、ということになります。

画像はBGGより。

カードは、イベントよりも両軍の兵器を表すものとなっており、各ラウンドに1枚を使って戦闘アクションまたは補給アクションを行います。戦闘アクションを選べば、ユニットは2倍の移動力で移動でき、砲撃、戦闘も行えますが、カードに記載されたリソース・ポイントを消費しなければなりません。補給アクションなら、ユニットは1倍の移動力で移動できますが砲撃、戦闘は不可、カード記載のリソース・ポイントを受け取ります。

日本軍カードの一例。観測気球まであります!!

例えば「九〇式野砲」を使って戦闘アクションを行うならリソース・ポイント(RP)を1消費、補給ならRPを1受け取ります。戦闘アクションを選択した場合はカードの「作戦効果」を得ることができ、補給下の射撃済み砲兵ユニットを表面に回復する、砲兵支援を伴う全ての戦闘でダイスの目+1、ソ連軍戦車の装甲値(両軍の装甲値の差が戦闘解決時のダイスの目修整になる)に-1、が適用されます。一方、補給アクションで使用すれば射撃済み面の砲兵ユニットを表面にできます。

「九六式一五糎榴弾砲」を戦闘アクションで使用するためには3 RPを消費しますが、砲兵支援を伴う攻撃ならダイスの目+3(!!)修整を得られます。同様の効果は「観測気球」でも得られますが、このカードは第4ターン開始時に取り除かれます。「九七式中戦車」は、戦車を伴う攻撃でダイスの目+2、補給で使用すれば、日本軍の戦車第3、第4連隊を強化面(これらのユニットは通常面と強化面とを持ちます。ステップが増えるのではなく戦闘力が高まる)にできます。

カードの使い方にRPの増減を連動させることで中期的な計画性をプレイヤーに求める手法、非常に洗練されている印象を受けました。もちろん小手先のテクニックよりも最終的な勝利条件を達成するためにどのような作戦を取るのかが重要なことは言うまでもありません。ハルハ河を挟んでマップの端から端まで敵に妨害されないよう道路を通す、というのは自動的勝利条件の達成は困難でしょう。ターンごとに決められた支配目標ヘクス数を達成する、または戦闘スコア(除去されたユニット数の差)で敵を圧倒する、という勝利条件は、時間を取るか空間を取るかのせめぎ合いであると同時にプレイヤー間の駆け引きが生じ、これも巧い設定だと感じました。肝心のプレイがまだなので、あくまでルールを読んだ印象ですが。


疑問に思われたのが日本軍の「毒ガス弾」カード(このカードのみ日本語タイトルなのです)。ルールブックのカード解説によると、防疫給水部が毒ガス弾/細菌兵器の使用を提案した……とあります。防疫給水部、七三一部隊がホルステン川にチフス菌を流したことは「後期日中戦争」シリーズで広中一成氏が書かれて(リンク先はPRESIDENT Online。詳しくは『七三一部隊の日中戦争』参照)いる通り。ソ連軍が先に赤痢菌を投下した、との証言もあります。細菌兵器はわかるけれど、毒ガス弾とは……。

この件についてデザイナーに質問をメールで送ったところ、資料付きで丁寧な返信をいただきました。氏(Kilovolt Designの窓口)とは、通常は英語でやり取りしているのですが、ニュアンスの違いがあってはならないからと今回は中国語も添えられていました。それによると、石井四郎による関東軍への「提案」に関しては1991年に発行された「黑龙江文史资料第三十一勘,日军七三一部队罪恶史,P248」がその論拠であるとのこと。どうもゲーム上の表記「毒ガス弾」は細菌兵器を砲弾あるいは爆弾、またはそれに類したものを用いて敵に投射することを指しており、ここは表記のために認識にずれが生じていましたが、その使用に関しては、多数の資料をいただきましたがそもそも認識に相違はありません。ゲーム上、若干効果が強い印象がありますが、補給アクションで得られるRPも大きいので、案外戦闘アクションでは使われないかもしれません。

冒頭で「政治的な意図があると誤解を招きそう」と書いたのはこの件。ですが、私の「下衆の勘ぐり」に過ぎませんでした。皆様におかれましては、心穏やかにプレイに臨んでいただければと思います。

ソ連軍カードの一例。「マスキロフカ(一番右)」は自動的に主導権獲得&日本軍は戦闘アクションを選択できなくなる、強力な効果を持つ。

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