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イカロス作戦: 狙われた「氷の島」

暑さ対策で(?)今夏リリース予定の『イカロス作戦: アイスランド侵攻』。4年前の2022年、BANZAIマガジン第13号誌上にて、倉元栄一氏がレビューを執筆されています。日本語版の発売に備えて、是非ご一読ください!!

お断り: 日本語版制作時にオリジナルの明らかな誤りは訂正し、未定義の不明確なルールの明確化を行いました。またコンポーネントのデザインも刷新しました(より涼しげになりました)。

ウォーゲーマー的に古今東西ゲームで取り上げられた「島」といえばアジア方面なら太平洋戦争の南方戦線における大小様々な島嶼や台湾、欧州方面なら地中海に浮かぶあの島やアノ島が……そして、ちょっと大きなところではブリテン島や日本本土等も含めることができるかもしれません。
今回紹介するのは、こうしたメジャーな島ではなく、第二次世界大戦初期に枢軸軍と連合軍の双方からにわかに注目されることとなった「火山と氷の島」に光を当てた『Operation Icarus』(以下OPIC)です。

幻のアイスランド侵攻計画

世界第18位の面積(約10万m2)を持つ島であるアイスランドは、グリーンランドとブリテン島・ノルウェイ沿岸の間に位置します。ドイツがヴェーゼル演習によりノルウェイ・デンマークを侵略した1940年6月当時、枢軸国に対する西欧最後の砦となった英国の北西に位置し、ブリテン島とデンマーク海峡を挟んだアイスランドが、にわかに注目を浴びることになります。陸の戦いでは押されている連合軍ながら海上戦力ではいまだ優勢を誇る英海軍を振り切って大西洋へ進出するルートとして、あるいはデンマーク海峡を挟んでブリテン島へ直接アプローチできる拠点として、同島がドイツ・連合両軍にとって無視できない存在となったためです。当時アイスランドはドイツにより制圧されたデンマーク領であったため、ドイツ軍が同島に進駐してくる可能性がありました。この絶妙なロケーションにある同島への枢軸・連合両陣営のアプローチは、結局のところ互いの陸海空軍それぞれの思惑なども交錯し、ドイツは計画を断念、英国は大隊規模の部隊を送って大きな抵抗も受けず同島を占領した、という結末に終わり、以後同島は幸いにも第二次世界大戦中に戦場となることはありませんでした。

このあたりの詳細は40ページからの歴史記事【編註: フォリオ版『イカロス作戦』に収録されます】をぜひご覧いただきたいと思いますが、ドイツ軍側の作戦名を冠したOPICは、幻に終わった計画を元に「もしあのとき両軍がアイスランドを重要地と位置づけ、侵攻を決断したことで同島が戦場となったら……」という状況設定でアイスランドをめぐる3つの仮想戦をプレイ及び検証できるタイトルとなっています。

ライトなシステムで三軍の運用を堪能

アイスランドはその面積に比べ、戦略的要所は大きく2つのエリアに限られています。A2判サイズのOPICのマップには、ブリテン島、アイスランド、ノルウェイとその周辺海域を収めた主に海上作戦エリア・マップと、アイスランド内の要所、南西のレイキャビクと北のアークレイリの周辺のみを表したの2つのヘクス・マップ(5 km/1ヘクス)がレイアウトされています。ユニットは艦艇が1隻~複数隻、航空機が複数のスコードロン、地上部隊が中隊~大隊規模を表し、英独軍や米加軍(!!)の陸海空の多彩なユニットが登場します。

またゲームシステムも、取り扱う要素に比べればボリュームは控えめですが、陸海空三軍それぞれの特性や相互に影響する事象等をひととおり盛り込んでいるため、コンポーネントや戦場のシンプルさに比べると、決して簡単とはいえない内容となっています。もっともこれは、一部ルール構造やその記述が整理されていないことがその一因となっているように感じます。しかし全体のポテンシャルは決して低くなく、むしろ複雑化しがちな各要素をコンパクトにまとめている印象です。

5日間を1ターンとする各ターンのプレイ・シークエンスは、ターン冒頭のイベント処理(ランダムで発生するものやどちらかの陣営が発動する特殊な活動……同島内第五列/コマンドによる破壊工作等)の後、シナリオで決定される先手番プレイヤーから海上・航空>陸上の順で、要素ごとに移動>戦闘を行い、最後に回復等のハウスキーピングを行います。なお両軍ともゲーム中に1回のみ使用できる電撃戦チットを持っており、任意の手番最後に陸上ユニットによる追加の移動・戦闘が可能です。

陸上ユニットに関するシステムは、ZOCがない以外はメイアタック、スタック制限あり、オーバーランあり、戦力比CRTとステップ・ロス/後退組み合わせ戦闘結果等々、作戦級ウォーゲームではよく目にする要素構成となる一方、海空に関しては抽象度が高く、エリア・マップ上での移動・戦闘が主となります。海上戦は少なくとも一方が「発見」されていないと生起せず、双方の発見状態により戦闘の同時性が変わります。戦闘解決はいわゆる「1D6で戦力値以下出ろ」というあっさりした処理となりますが、有名艦が多数登場するシナリオは大いに盛り上がるでしょう。また艦艇はヘクス・マップ(海/港湾)へも移動可能で、港湾で地上ユニットを積み降ろししたり、地上施設/陸上ユニットに対する艦砲攻撃を行えます。航空ユニットには偵察から輸送、対艦・対地上攻撃といった多彩な任務が用意されており、機種によって実行可能な任務が異なります。航空戦力による戦闘は対艦・対地・迎撃があり、対艦戦闘は海戦と同手順で処理されますが、対地・迎撃はヘクス・マップ上で行われ、ヘクス上の施設や敵地上ユニットを目標に、艦砲射撃と同じ手順で判定を行います。迎撃は対艦・対地攻撃を行う敵機に対して可能で、判定は上記いずれとも異なり、双方自戦力+1D6値の多寡で判定します。

このようにいずれの処理も簡単ながら、陸海空種別とその対象の組み合わせにより判定方法や使用する表を変えることで「攻勢/防衛」「攻撃任務の達成」「相手との撃ち合う」といった感覚をプレイヤーに提供しようとしており、この辺りにデザイナーのこだわりを感じます。

勝敗はシナリオ毎に調整がありますが、基本的にゲームで共通設定されているVPの獲得数で決まります。その獲得手段にはヘクス・マップの陸上要地確保による他、敵輸送船撃破や海上エリアの制海権確保があり、それぞれ1~4 VPが設定されていますが、VP単価でみれば陸上要地確保よりも輸送船撃破や制海権の方が価値が高く設定されています。ただしOPICでは海戦の前提となる敵艦隊/輸送船団捕捉が非常に困難(つまり海戦が生起する確率が低い)なため、地道ながら必ず戦闘が行えてVP獲得の見通しが立てやすい陸上要地支配が主なVP獲得手段となるようです(この辺りはBoardGameGeekのフォーラム上で疑問が呈されていましたが、そもそも広大な海で小規模な艦隊の捕捉はやはり困難だったでしょうし、ゲーム的に海戦を起きやすくすると海戦主体となってしまい、ゲームのテーマがぼやけてしまうことになりますので、筆者はこれはこれで妥当な処理ではないかと考えます)。


OPICのマップにはアイスランドの2地域が別々に用意されており、ミニマップ間を移動できる

双方攻守を楽しめる3つのシチュエーション

OPICには各10ターンからなる3つの異なる状況設定=シナリオが用意されています。もちろんいずれも仮想戦となりますが、それぞれアイスランドが戦場となる世界線の時系列に沿った異なる時期の戦いを取り上げており、魅力的なシチュエーションとなっていますので、これらについて簡単に紹介しておきます。

シナリオ1: 1940年5月……英独両軍によるアイスランド争奪戦

ノルウェイ戦の最中に双方の軍により同時にアイスランド上陸が実行されたという状況です。主戦場はノルウェイであり、両軍の陸海空共に非常に限られた部隊規模しか登場しません。ドイツ軍にはかろうじて機甲部隊(港湾設備能力が低く軽戦車主体)がある点や序盤の海上戦力でアドバンテージがあり、英軍は後半でわずかにフッドが増援として登場します。ある意味、起きたとすれば史実に近い投下戦力であったかもしれず、ないない尽くしの中で同島の支配を図らねばならない両軍の苦悩を味わうことができます。とは言え、やはり全般的に作戦的選択肢は少なく、地上戦以外は生起しにくいため地味な展開となるでしょう。ゲーム内では「両軍が陸海空三軍の運用手順を学習するためのシナリオ」といった位置付けと考えてもよいかもしれません。

シナリオ2: 1940年7月……イカロス作戦: ドイツ軍によるアイスランド上陸侵攻

ノルウェイ制圧後の史実で計画されたイカルス作戦と同時期ながら、この世界線では並行してドイツ軍によるシーライオン作戦(英本土上陸)も発起された、という状況となっています。シナリオ1で英軍が同島確保に成功したことを想定しているのでしょうか、既に英軍が守備している同島へドイツ軍が上陸侵攻を行います。見どころはやはり双方投下される戦力規模が大きくなり、特に海上ではキング・ジョージVやプリンス・オブ・ウェールズ、ビスマルクにグナイゼナウといった主力艦の他、英国側には空母(アーク・ロイヤル)も登場して一気に華やかとなる点です。依然海戦の生起率は低いのですが、史実のようにデンマーク海峡周辺を舞台に英独主力艦同士による激しい海戦が生起するかもしれません。加えて作戦選択肢や部隊運用の難易度も増すことでゲームとしての面白さや深みも上がるでしょう。


シナリオ2の海空戦。イギリス本土上陸作戦が同時に行われているという設定なので、英海軍力は控えめ
シナリオ3: 1941年7月……連合軍によるブリテン島奪還の前哨戦、アイスランド侵攻

この世界線の時間軸でシナリオ2から1年が経過した後の戦いですが、なんとシナリオ2で並行して行われたシーライオン作戦が成功、英本土およびアイスランドがドイツに占領された状況下、連合国による英国奪還の前哨戦としてのアイスランド上陸侵攻という設定です。英国制圧を受けて参戦した米・加軍を中心に残存英艦隊を加えた陸海空三軍が、これと別に英本土側のドイツ軍主力を誘引したところで手薄となったドイツ軍支配のアイスランドを目指します。シナリオ2とは真逆のシチュエーションですが、手薄とはいえ錚々たるドイツ艦隊に対し、史実では起きなかった米戦艦隊が対峙するというシチュエーション(それも主戦場は海上でもブリテン島でもなくアイスランド!)はアツくならざるを得ないでしょう。

すでにお気付きかもしれませんが、これらシナリオの状況はいずれも、なんとなく欧州大戦で実際に生起したあるいは計画された三軍立体運用を伴うメジャーな戦場や作戦の縮小版&オマージュ(諸兄それぞれの脳裏に思い浮かぶ戦場がいろいろあるでしょう)に見えないこともなく、思わずニヤッとさせてくれます。


シナリオ3ではアメリカ軍と自由イギリス軍(さらにカナダ軍)がドイツ占領下のアイスランド奪還を目指す!!

イロモノゲームと侮ることなかれ

OPICの大きな魅力が、第二次世界大戦中、結果的に戦場とはならなかったものの、決して荒唐無稽ではなく、状況によっては枢軸・連合軍による強襲上陸戦が行われたかもしれないアイスランドを舞台として、幻に終わった計画に加えてさらにヒネリを利かせて枢軸・連合国で攻守が入れ替えて上陸侵攻が行われる様々なシチュエーションを楽しめる点であることに異存はないと思います。

しかし、派手さはないもののOPICの「ディテール感を残しつつコンパクトにまとめられた陸海空三軍運用システム」も本作のもうひとつの大きな魅力であり、これらが合わさることによりプレイヤーは史実にとらわれない自由な立案で島嶼立体作戦を楽しむことができるのだ、とも言えます。

OPICの各シナリオが史実の戦場や作戦を想起させると書きましたが、本作の「陸海空三軍運用島嶼上陸~制圧戦に関する要素をトータルに、適度なボリュームで盛り込んだ汎用性のある」システムにより、「史実上の様々な島嶼侵攻戦をプレイアブルなスケールで再現」という可能性にも期待できそうです。

テーマとしては明らかにイロモノの部類に入るOPICですが、これまで取り上げられることがなかった第二次世界大戦初期のWhat-Ifに、そうしたイロモノさに甘えずライトながらマジメなシステムで挑んだ『Operation Icarus』。プレイするチャンスがあればぜひ試してみていただきたいと思います。


ということで間もなく「プレイするチャンス」が訪れます。最も暑い夏を、『イカロス作戦』で乗り越えていただければと思います(「ゲームをやって熱くなってしもうたやんけ」というツッコミもお待ちしております)。

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